第五話 神にささげるいのち①
はずれを引いたの だぁれ
はずれを引いたの だぁれ
(はずれを引いたの誰、か。なつかしいな)
子供の遊びは奥深い。遊ぶころあいを過ぎると、ひどく残酷な歌にきこえたりするのだから。
そんなことを思いながら、ウリスケはぼうっとしていた。
違う、あれは。ぼうっとなどしてない。
死んでいる。
(俺、ウメをおいて、死んじまったんだ。そうだ)
はずれを引いたの だぁれ
◇
ウリスケが消えたことは事実らしく、里者総出でどこを探してもとうとう見つからなかった。
そしてその日の夜。
里をしきるダヒの家に、センジとウメは招かれた。
里長のダヒは風変わりな老爺だった。常に熊の毛皮を頭からかぶり、目もとはうかがえない。そのうえ、白い口髭や極端な低身長にくわえ、丸い背が特徴的ではあったが、もっとも厄介なのはその性格だった。
とにかく、まわりくどい。
センジからすれば、ウメが「わからずや」なら、ダヒは「かったるい」そのものだった。
御大層な生垣に、里者のボロ家とは違う風体の、神でも祀るかのような恭しい屋敷。
門をくぐって戸を引けば、そこにはなんとセンジの父。
(はーいはい。アクビの出るお説教の始まりってわけだ)
などと、センジは生意気にも思った。
彼の父が間髪いれずに、センジにつめ寄る。
「いたずらにしても程度ってのがあるだろう。最近のオマエはおかしい。どうしたんだ」
「うっせぇな、おっとうなんか、いつまでもおっかぁの乳吸ってりゃいいんだ」
「おいこら!どこ行くんだ!センジ!」
(必死なフリ、ご苦労様だよ)
当のセンジの目に、もう実の父の姿はうつらなかった。
「何してる。ウメ!こっちにこい!」
「え。え?」
ウメはウメで、ダヒの家にあがりこもうとしていた。
「――だぁあ、いいからこいっての!」
「待ちなさい。ウメはこの通り、うちにあがっていくのだ。それを阻止するのはなぜじゃ」
「どうせ説教たれるんだろうが。わかりきったこときくんじゃねぇ!」
今度はダヒとセンジが対峙する形となった。
「ほほう?説教するかしないかは、オマエさんの話をきいてからなのじゃが。はて、訳知り顔でウメに執着するお主が変に思えてならんな。これまでになかったことじゃ、隠し事か?それは消えたウリスケと関係があるのか?どうじゃ、言うてみぃ」
「んの、放せよ!クソジジィ!」
ゴッ。
(いっ!)
「悪いのぉ。手荒なマネはさけたいのじゃが、ウメにした仕打ちがあったろう。我ながら警戒しておるのじゃ」
不意に体に衝撃が走り、センジの意識はそこで途絶えた。
暗闇の中で、声がする。ダヒと、ウメのものだろうか。
センジは朦朧とする意識の中で確かに、きいた。
「はて。ウリスケが倒れた、とのことじゃったが」
「うん、センジがそう言ってた。またなんか悪さしたんだと思う。でもおっとう」
「して。ゴホンッ」
「うん?」
「センジはいい奴か?悪い奴か?」
「悪い奴だよ」
「そうかそうか。ウメはいい子になったのぉ」
(……)
癪に障る会話で、視界が開ける。センジは自分が今どこにいるのか、わからなかった。
これは、夢なのだろうか。
「この輪っかに首を通しなさい」
ダヒがウメにさしだしたのは縄の首輪だった。それも天井から伸びており、輪の結び目より後ろは引けば殺せそうなほどに長い。
「私、いい子?」
「そうだよ。オマエはいい子だ。ほぅら、首にかけれるね?」
「うん」
センジは冷や汗をかいた。
(やめろ!ウメを殺すな!でなきゃ、ウリスケの奴――あいつが!俺のせいで、俺の――いや、このモヤがかる心の重さもこれで、なくなるのか。ならウメを殺してしまってもいいのかもしれない。ウリスケには悪いが、つぐないよりも、もう楽になりたい。違う。これは本心じゃない。違う。違う、ちがっ)
ミシッ。
ウメが苦しそうにして、縄で首をつってしまった。
しかも。
(なんだこれ、なんだよこれ。首をつってるってのに――ウメもダヒも笑って。なんで)
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