第6話 到着
城壁は綺麗な白い石で建てられているのでエルマーが見とれているとフーゴが馬を寄せて肩を叩いた。
「どうだ、驚いて声も出せねぇか、がはははっ」
「あなたっ仕方がないでしょ、エルマーちゃんは初めて見るようなものなんですからね」
んっ? だとすると記憶に残らない程の子供の時は王都にいたのかな。
「これが王都なんだ。村とは全然違うんだね」
あ~、早く成長しないかな、一体この私はいつまでこの話し方をしなければいけないんだ。何だか背中が痒くなってくるんだよな。出来れば直ぐにでも直したいけれどそうはいかないよな。
目の前にある城門は固く閉ざされていて誰もいないので違う城門に向かった方が良いとエルマーは思うのだがフーゴは無遠慮に城門を叩きまくる。
おいおい何をしてるんだよ。そんな事をしたら捕まってしまうんじゃないか。
エルマーの心配が当たってしまったのか城壁の上からその音に気が付いた衛兵が身を乗り出して睨みつけて来た。
「おいっ何をして……あ~すみません。そういや今日でしたね。直ぐに城門を開けるので待っていて下さい」
睨んでいた衛兵はフーゴを見ると直ぐに笑顔を見せてから姿を消した。
「ったくよ、忘れてねぇで開けとけよな。お~い急げよ」
どうしてこんなに偉そうなんだ? もしかして貴族? そんな訳はないよな。
直ぐに大きな城門が音もなく開かれると数人の衛兵が列を作って待ち構え、その後ろから先程の衛兵が小走りでやって来た。
「お待たせいたしました。今回は家族で一泊するんですよね、向こうで暮らすようになってから初めてじゃないですか?」
「そうだな、いやぁ息子がとうとう10歳になったからよ、そろそろ世間ってものを見せてやろうかと思ってな」
「そうですかおめでとうございます」
その衛兵は笑顔を見せながらエルマーの頭を撫でてきたがほんの一瞬だけ悲しみと哀れみが混じったような複雑な視線を送って来た。
そして他の衛兵は感情をわざと無くしているように視線をエルマー達に向けようとはしない。
なんだか変な感じだな、やはり私は普通の10歳より小さく見えるからなのかな。
フーゴとその衛兵は楽しそうに会話を始めていると、それを遮るようにデレシアがフーゴの袖を引っ張った。
「あなたそろそろ良いでしょ、エルマーちゃんに見せたい物があるんですから早く市場に行きましょうよ」
「私が引き留めてしまったようでデレシアさん申し訳ありませんでした。その代わりに手続きは全てこの私がやっておきますのでどうぞ行ってください」
「何時も悪いな。じゃまたな、マルゴー」
このような世界であれば必ずと言っていい程何かしらの身分証を見せるかそれともお金を払って中に入る事になるのだがエルマー達は何も行わずに王都に入る事を許可された。
エルマー達がその場所を離れると後ろでは再び城門が固く閉ざされていく。王都の中でもこの場所は端にあるせいか人の気配はあまりなくて武骨な石造りの建物が並んでいる。
どうしてもエルマーは周囲を気にしてキョロキョロしいるとフーゴがにやけながら声を掛けてきた。
「どうだ珍しいだろ、それでなあの角を曲がると市場……店……おいっ何てエルマーに説明したら良いんだ?」
こんな初歩中の初歩とも言える事すらエルマーに教えていなかったのでフーゴは笑顔を引っ込めて困惑した表情になりデレシアに助けを求めるように懇願した。
「分かったわよ、あのねエルマーちゃん。市場って所には色んな……見ながら説明してあげるね、それに欲しい物があったら何でも買ってあげるから、買うって分かるわよね」
あのね、何でそれぐらいを教育しないのかな、学校が村にないなら親がしなくちゃ駄目だろ。私だからいいけど記憶を取り戻す前のエルマーだったらどれ程混乱したんだろうな。この二人は親としての自覚はあるのかな。
角を曲がると殺風景だった景色は一変し広くて綺麗な道の両サイドには露店が所狭しと並んでいる。人や獣人もかなり歩いているのでエルマー達は馬から降りて歩く事にした。
「ねぇもっと近くに行ってもいいかな」
「あぁ良いぞ、そうだな馬が邪魔だろうから俺が一人で連れて行くからお前達はゆっくり見ながら来いよ」
フーゴは器用に三頭の馬を引き連れて先に行ってしまう。傍からみると優しい父親のように見えるがこれからエルマーの質問攻めにあうのではないかと恐れて逃亡しているだけだ。
「さ~て、勉強しながら覗いてみようか」
「うん」
デレシアはお金の仕組みから説明を始めるし、エルマーが手に取ったものは値段を見ずに直ぐに購入する。
甘やかすのはまぁ理解出来るけど、どうしてそんなに金を使えるんだ? あっそうか村では金を使う必要が無いから貯まるだけだからか。
私達はほぼ悩まずにそれに値下げ交渉もしないで次々と買っていくので店側としてはかなりのいい客なのでどの店も店員は愛想よく対応してくれたがある一つの店はエルマー達がその店を離れると何か耳打ちをしていた。
エルマーはそれに気が付いて魔法で盗み聞きをしようと一瞬だけ考えたが気のせいだと思い気にしないように次の店に向かって行く。
「さぁ次は何が欲しいかな」
エルマーの背負っている袋の中にはかなりの量の物が詰め込まれているし、両手にはジュースと串焼きを持っているのでそろそろ限界に近づいて来た。
「もういいかな、それよりどうしてそんなにお金を持ってるの? お父ちゃんは何して稼いでいるのかな」
「エルマーちゃんは頭が良いんだね、もう理解したんだ。そうだね、お父ちゃんだけでなく私も仕事をしているしエルマーちゃんだって働いているからだよ」
「えっ僕は何もしていないよ」
「あっそうか仕事の説明もしなくちゃいけないか」
あ~もう何だよ、そんな事はいいから早く本題に入ってくれないかな。
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