第5話 ゴーレムちゃんの活躍

 ゴーレムの視界に入っている魔獣は四足歩行の猪に似た魔獣で刃の様に鋭い牙で狙た獲物を切り裂いて殺す大型の魔獣だ。通常の個体でも危険な魔獣なのにその瞳は赤く光っていて狂暴化しているのが分かる。討伐専門の冒険者でも最低4人はいなければ殺されてしまうだろう。


 まさか村の近くにブラッドボアがいるとはな、本当に危険な場所だったのか。それよりもあの状態だと任せるのは無理だろうな。もしやって来たら私がやるしかないのか? クソっあのゴーレムちゃんでは無理だろうしな、どうにか出来ないだろうか。


 相手がゴブリンであったのなら余裕で倒せるのだが、未完成なゴーレムの攻撃は硬い皮膚で覆われたブラッドボアには通用しない。


 エルマーが拳を握りしめて口当てながら考えていると、向こうでは走っていたブラッドボアがゴーレムの前に立ち止まりその前を右往左往し始めた。


 おっこれはチャンスかもしれないな、そのまま何処かへ行ってくれたらいいな、そうなるとこっちの進路をちゃんと知らないとな。


 フーゴは少し距離が離れているが目の前を走っているデレシアにエルマーは声を掛けた。


「お母ちゃん、このまま真っすぐ進むの」

「そうよ、エルマーちゃんには分からないだろうけど、これでも道になっているのよ」

「ふ~ん、そうなんだ」


 そうなるとブラッドボアの進路を変えないといけないな、出来ればそのままそこにいてくれ。


 するとブラッドボアは何かが気に障ったようで鼻を鳴らしながら後ろ足で地面を蹴り始める。次の瞬間には真っすぐゴーレムに向かって来てそのまま踏み潰した。


「うわっ」

「えっ、どうしたの、何かあった?」

「ううん、虫が目に入っただけだよ」


 別にあれぐらいでゴーレムが壊された訳でもないし、ゴーレムが踏まれたからと言って痛みが伝わって来る訳ではないが、エルマーは思わず声に出てしまった。


 地面に埋まってしまったゴーレムは這い上がると再びブラッドボアを視界に入れる。ゴーレムをやっつけたと思っているブラッドボアは顔を振りながら上を見上げ空中に漂っている匂いを嗅ぎ始めると人間の匂いを感じ取ったのか姿勢を低くして今にも此方に向かって走り出しそうだ。

 

 だったらやるしか無いか、ゴーレムちゃん、君の事は忘れないからね。


 ゴーレムはブラッドボアが走り出す前にお尻に向かって体当たりするとブラッドボアをバランスを崩して地面に顔を打ち付けた。更にその顔を踏みつけながらその場で一回転しながらジャンプしゴーレムは倒木の上にストンと降り立った。


 ブラッドボアにダメージは全く無いが小さなゴーレムに馬鹿にされたと思ったのかその大きな口を開けながらゴーレムに噛みつこうと近づいて来る。


 ブラッドボアとゴーレムの距離がほんの数cmの距離に近づいた時にゴーレムは藻の前で破裂し黒い液体がブラッドボアの顔に纏わりついたり口の中に液体が入り込んでいく。


 肉体的には全くのダメージはないが、ブラッドボアだけに聞こえた大音量と飲み込む事の出来ない苦い液体と凄まじい匂いのせいでブラッドボアは気が狂ったようにその場で暴れ回りそして何処かに向かって走り出して行った。


 そんなに暴れなくても数分で消えちゃうんだけどね、そこまでは分からないか。けどこれで何処かに行ってくれて助かったよ。


 ゴーレムのおかげで危機が去ったのだがフーゴは急に馬を止めて空を見上げ始めた。


「あなた、どうかしましたか」

「何か気になるんだよな、音が聞こえたような? それに変な匂いがしないか?」

「えっそうかな? エルマーちゃんは何か感じたりする?」

「僕には良く分からないよ」


 もしかしてフーゴは凄い実力者なのか? そこまでとは思わないんだけどな。まぁその内わかるだろう。


 ゴーレムの自爆攻撃を受けたブラッドボアは川に飛び込む手前で匂いや音や味の影響が消えたいった。ただそれで良かったと思う程の冷静さはなく、その怒りを近くにいた魔獣に八つ当たりをしてかなりの数を殺しまくったが人的被害は一切なかった。


 そんな事になっているとはエルマーは知らずにただブラッドボアが去った事にホッとしながら3時間程馬を走らせているとようやく森を抜ける事が出来た。そこは芝生の様な草原が続き、遠くの方にかなり大きな城壁に囲まれた王都が微かに見える。


「よしっ馬が疲れただろうから一度ここで休憩するぞ」

「エルマーちゃん。あそこに見えるのが王都よ、早く行きたいかもしれないけどもう少し待ってね」

「うん」


 30分ほど馬を休ませた後で再び馬を走らせると程なくして見上げると首が痛くなるほどの城壁に囲まれた王都に到着した。


 ふ~ん。随分としっかりした王都だな。それだけ危険な場所って事なんだろうね。

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