第7話 村の事

 買い物が一段落したエルマーは道の脇で仕事についての講義をデレシアから受けている。だが今のエルマーにとっては当たり前の話なので早く核心に触れて欲しいと願っているがそんな気持ちは決して顔に出していない。


 長い、長いよ。そんな基礎はどうでもいいから私が何の仕事をしているのかそろそろ話してくれても良いんじゃないか。いくら記憶を探っても仕事をしている記憶が無いんだよ。それにさ出来ればあの村の事も知りたいんだよな。おかしいだろ子供が私しかいない村なんて。


 そんなエルマーの気持ちに気が付かないデレシアは仕事についての基本を話し終えると何故か学校の話に移ってしまった。


「学校って所があるんだね、それは分かったけど、それで僕は何の仕事をしてるのかな」

「ん~そうね、何て言ったら良いのかしら……まず私達が暮らしているボロノフ村は悪く言う人は生贄の村って言って、冒険者からは金脈の村って言われているんだ」

「生贄? 金脈?」

「あぁその意味からか……」


 デレシアは生贄と金脈の意味を話した後でやっとボロノフ村について話し始めた。


 村の北側の森を抜けると山脈があり谷にある砦を守るように3つの村がある。

 そのうちの一つがボロノフ村である。

 3つの村の近くには魔獣寄せの魔道具がいくつも設置されている。

 何故なら魔獣や魔人が山を越えて直ぐに王都に向かわせない為に。

  魔人に対して効果があるのかは不明だが村が作られてから魔人は姿を見せない。

 村人の仕事は森にやって来る魔獣を倒す事。

 倒せないのであれば命を懸けて食い止め情報を王都に送る事。

 村が作られてから王都はこの場所に移動してきた。

 

 村人は暮らすだけで王国から毎月お金を貰えるし、森で討伐をすればギルドに魔石や部位を売ってお金を貰える。その他にも臨時報酬が貰える場合もある。そして村人になる為には王国軍とギルドの審査が必要になる。


 村には厳しい決まりがあり、ある一定の討伐をしなければ罰金が発生するが討伐数の貸し借りは村人内で勝手にやっていい。それに村から離れて王都に勝手に戻る事は許されず功績度に見合った日数しか滞在できない。


 冒険者で1流になる事を諦めた者達はこぞってこの村に来たがるが王国の予算があるので村民の数は決まっている。


 最大の欠点は契約期間の終了までに生き残る人数は半数にも満たないと言う事だ。


 この村を作った本当の理由はその当時の国王しか分からないがそのおかげで王都の安全は100年以上も守られている。


 これがデレシアの知っている全てであった。エルマーにとってはまだ村に対して疑問があるがデレシアはそれ以上の事は知らない。


 何なんだよ。こんな場所にどうして王都を移したんだ? 生贄の村なんてそんなに意味無いだろ。それに魔獣寄せだと? もしかして権力者は楽しんでいるのか?


 エルマーの記憶を探ると何度か地下室の中で過ごしていた時もあるのでもしかしたらその時は何かが襲撃してきたのかも知れないと思うと少しだけフーゴとデレシアを憎む気持ちが芽生えて来た。


 そんな村で子供を育ててるのか、全ては金の為に。


 デレシアは長い話を終えると気不味そうにエルマーの顔を覗いて来たので、エルマーは決して本音は見せずにただ笑顔を返した。するとそれを素直に信じたデレシアはホッとしたような表情を浮かべる。


「ずっと黙っていてゴメンね、エルマーちゃんが怖がると思って言えなかったんだ。いくら怖がっても王都に帰る事が出来ないからね」

「契約期間っていうやつでしょ」

「そうそう、やはりエルマーちゃんは頭が良いんだね、さて、お父ちゃんが待っているだろうから本当の家に行こうか」


~~~


 王都の家は閑静な住宅街に存在し整備された庭がある3階建ての立派な家だ。


「此処が僕達の家なの?」

「そうよ、覚えていないかも知れないけど2歳位までは此処で暮らしていたのよ」


 誰かが手入れをしているだろう庭をエルマーが眺めていると二階の窓が開いてフーゴが身を乗り出しながら叫んできた。


「遅かったじゃねぇか、早く入って来いよ」

「そうね、エルマーちゃん庭で遊ぶのは後にして中に入りましょうよ」

「うん」


 家の中は数々の年代物の調度品が並んでいるが決して乱雑ではなくてきちんと整理されている。室内も何時でも明るく過ごせるように調光魔道具も置いてあるし普通の市民の家だとは思えない。


 どうなっているんだ? 昔に私がここで暮らしていたって事はそれなりにお金があるって事だよな、それなのに何故……。


 エルマーが絵を見ている振りをしながら考えているとフーゴが足音を鳴らしながら2階から降りて来た。


「どうだ驚いたか」

「うんそうだね、もっと前に此処に来たら村に戻りたくないだろうな」

「そうだろうな、だから10歳になって物分かりが良くなる迄はここに連れて来れなかったんだ」


 碌な教育をしていないんだからそんなに上手くいく訳ないだろう。記憶が戻らない私だったら泣き叫んでいたんじゃないかな。出来の悪い両親よ、今の私で良かったね。


 

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