第4話 王都に向けて

 まだフーゴがジャコブと会話をしているのでその間に部屋に戻ったエルマーはタンスの中から服をどんどん外に投げ出した。

 

「かなり前に貰った木のおもちゃがあるんだけど捨てた記憶が無いからこの中だよな、無意識行動されると記憶に残らないから分からないんだよ」


 ブツブツいいながらタンスの中を探したが見つからず結局その小さな掌サイズの人形はベッドの下に埃をかぶって放置されていた。


「片手はないけど別に問題ないだろうな、時間がなさそうだから出来る限りやってみますか」


 指先に魔力を集め床に向けると淡い光を放ちながら魔法陣を描いていく。額に汗を浮かべたエルマーは8滴の汗が床に落ちた頃にその木人形を魔法陣の中心に投げ入れた。すると人形は魔法陣の中に吸い込まれるように消えて行く。


 もっと魔力がこの身体にあれば簡単なのにな。上手く言ってくれよ。


 ベッドに座って少しでも疲れを癒すように休んでいると下の階からフーゴの大声が聞こえて来た。


「お~い。もう出発するから降りて来い」

「分かったよ、他の服に着替えてから降りるね」


 強制的に時間切れとなってしまったので諦めたエルマーは着替えを済ますと魔法陣の中に手を入れて木人形を取り出しそれをポケットの中に入れると部屋を飛び出して行く。 


 出来ればこれを使う必要がなければ良いんだけど。


 下に降りると既に3頭の馬が準備されているので早速飛び乗ってから出発する。村を囲んでいる森はジャングルの様な木が密集している様な森ではなく太くて長い木が等間隔に近い形で森を形成しているので馬で走るのには何ら影響がない。


「あれっお前、馬に乗るのが上手くなってねぇか」

「本当にそうね、これならもっと早く着くから嬉しんだけど、どうしてそんなに上手くなったのエルマーちゃん」

「暇そうなおじさん達に教えて貰ったんだよ、驚かせたいから秘密にしていたんだ」


 完全な嘘だけど、まさか村に戻った時に聞きまわったりはしないよな、頼むよそれは止めてくれよ。


 これまでのエルマーは馬を歩かせるのがやっとでしかも練習嫌いだったが記憶を取り戻したエルマーにとっては馬は手足の様に操る事が出来る。


 エルマーの様子を見て速度を上げても問題は無いと判断したフーゴは馬を走らせる事にした。デレシアもフーゴも気持ちよさそうに馬を走らせているがエルマーだけは楽しめていない。


 無防備に走らせないでくれないかな、この森には魔獣がいるんだろ、まぁ僕が感知するからいいけどさ、それにしても武器を持っているのはフーゴだけなんだから少しは考えて欲しいよ。それにしても大剣を背負っている姿は似合うじゃないか。


「ねぇお母ちゃん、この森には魔獣がいるんだよね、お母ちゃんは武器を持たなくていいのかな」

「そんな心配しなくても大丈夫よ、お父ちゃんがいるんだし私もいるしね」

「えっお母ちゃんが……どうやって」


 もしかして魔法が使えるのか? いや、魔力なんて微量にしか感じられないぞ。


 エルマーが不安そうにしているとその会話が聞こえたのかフーゴが速度を落として馬を下げて来た。


「心配するなエルマー、お母ちゃんはな怒ると俺以上に強いんだぞ」

「あなたっ」

「ほらっエルマーこれだっ」

 

 デレシアが声を荒げると再びフーゴは速度を上げて先に進んでしまう。何も解決はしていないがそれよりもエルマーは魔獣の気配を感じとった。


 どうする? フーゴ達が気が付いていないようだけど教えるか? それとも気が付くまで様子を見るか? 2人の実力を測るには良い機会かも知れないな……もしもの場合目の前で手伝う訳にはいかないから駄目だろ。


「どうしたの? 速度が落ちてきているわよ」

「ゴメン、森の中を走らせるのが初めてだからさ、何かあったら叫ぶから気にしなくてもいいよ」

「そう? 私のすぐ後ろを付いていれば道は大丈夫だからね」

「うん分かった」

 

 さて、こっちの進路に被らないかどうか様子を見に行って貰った方がいいかな、まさかもう使う羽目になるとは思わなかったけどやってみようかな。どうせなら倒してみようかな。


 エルマーはズボンのポケットから小さな木人形を取り出すと顔の部分に指先を当ててその指を自分の左目にこすりつけると視界を木人形と同期させる。その後で人形をその場に落とした。


 さぁ行くんだゴーレムちゃん。頼んだよ。


 エルマーが指を鳴らすと木人形は生き物のようにムクっと起き上がると走り出していく。エルマーの魔力で動いているゴーレムは地面を這うようにしながら馬よりも早く障害物を巧みに飛び越えながら進んで行った。


 この世界での最初の討伐はどんな奴かな? 出来ればゴブリンだったら喜んでた討伐してやるんだけど。


 エルマーは右目にデレシアを見て左目はゴーレムの視点で物を見ているので普通の人間であったのなら直ぐに気持ちが悪くなってしまうがこれに慣れているエルマーにとっては多少の違和感がある位だ。


 そして数分後になるとゴーレムの視界に此方に向かって歩いている魔獣の姿を見つける事が出来た。


 おいおいおい、何であんな魔獣がいるんだよ。それにあの個体は狂暴化しているじゃないか、それだとあのゴーレムちゃんには荷が重いんじゃないかな。参ったな。 

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