第3話 朝食の中で
早くも王都に行けると言う事はこの世界を知るいいチャンスだとエルマーは思ったが、どうして王都という言葉も知らないで育てられたのか疑問に思ってしまう。
「ねぇお母ちゃんも行ってたけど王都って何なのさ、良く分からないからちょっと怖いな」
どうだ、この演技は完璧だろう。これが今迄培ってきた私の能力さ。まぁ誰にも言えないけど。
フーゴは手に持っているグラスの中身を一気に飲み干すと顔をほころばせながらエルマーの頭に手を伸ばしてきて優しく撫で始めた。
「教えていなかったのは悪かったな、そうだな……」
説明を始めようとしたのだが答えを聞く前にデレシアが遮って来た。
「エルマーちゃん。別に怖い所じゃ無いのよ、それに言葉より目で見た方が早いから後のお楽しみにしてね、それより3日も寝ていたのにいきなり行っても大丈夫かな」
「僕は大丈夫だよ、もう元気さ」
「デレシアよ、こいつもそう言っているんだから大丈夫だろ、それにこれを断ったら直ぐに許可が下りるとは限らんぞ」
「まぁそうよね、順番が次に移るわよね」
フーゴ達の会話に口を挟みたいエルマーであったがあえて黙っている。
おかしなことを言っているのは理解出来るが、それも王都に行ったら分かるかもな。
「それによ、いきなり倒れたんだ。治療院に見せた方がいいだろ」
「そうね、心配だからまた見てもらいましょうか、だとすると早く食べて出発しましょう」
テーブルの上にはサラダやスープや美味しそうなパン、そしてこんがりと焼けた肉や、香草で覆われた魚が並んでいる。
それにしてもやけに豪華じゃないか、どう考えても田舎の村にしてはおかしくないか、エルマーの記憶の中ではこれはいつも通りだからこの世界では当たり前なのか?
かなりお腹も減っているので口入れるとどれもが美味しいのだがどうやらこの身体は大量に食べられないのでスープとパンだけでお腹が一杯になってしまった。まだ両親が食事中なので窓の外に視線を向けながら村の外の記憶を思い出してみる。
この村は森に囲まれていて数回だけ川に釣りをしに行くために森を抜けた記憶があるがその数回は毎回同じ道を使っているのでそれ以外の情報は無い。
村の外に出れない理由はこの森の中には危険な魔獣が多く生息しているので自分で身を守れるようになるまでは簡単には出してくれないそうだ。
何でこんな危険な村で私を育てているんだ?
顔に出さないように注意しながら考えていると激しく家の扉を叩く音が聞こえて来た。
「お~い、フーゴさんよ、ちょっといいかい。村長~、まだいるんだろ」
フーゴは面倒くさそうに立ち上がり扉を開けて会話を始めたので魔法を使ってその会話を盗み聞きする事にした。
いやぁこの魔法を使えるようになって本当に良かったよ、あのエルフに感謝だね。
「朝から何だよジャコブ、もう少し静かに出来ないのか、扉が壊れたら直すのに結構金と時間が掛かるんだぞ」
「良いじゃねぇか、その時は俺が金を払うからよ、人工も増やせば直ぐに直るって、そんな事より村長が王都に行くのは今日だったよな、だったら買って来てほしい物があるんだよ」
「あのなぁだったら役人に連絡して届けさせればいいだろうが、それかよ出入の業者に頼べばいいだろ、なんでこの俺がお前の為に貴重な時間を使わなくちゃいけないんだよ」
「そう言うなって、そもそも俺が欲しいのは最近になって発売された連射弓なんだ。それがここで使い物になるかどうか村長の目で判断してくれよ、俺が王都に行けるのはまだ先だからな、なぁ頼むって、これで買ってきてくれ、余った分はエルマーの土産に使ってもいいからよ」
「エルマーの土産代位はいくらでもあるからどうでも良いんだがよ、何か面倒だな……おいおいそんな顔するなって、分かったよ、ただしこの金貨10枚を超える様なら立替はしねぇぞ」
何なんだ今の会話は? どうしてこんな村に暮らしていてそんなに金貨を持っているんだ。それともこの世界では金貨の価値が低いのだろうか?
「どうしたのエルマーちゃん? ボーっとしているけどまた具合でも悪くなったの?
2日も眠り続けたからやはり王都に行くのは無理かなぁ」
エルマーが会話の内容に驚いて動きが完全に止まってしまったのをデレシアは病気のせいだと勘違いしてしまっているようだ。エルマーは王都に行きたいので両手を交差しながら振って慌てながら否定する。
「違うよ、お腹が一杯になったからボーっとしただけだよ、全然大丈夫だから心配しないでよ」
「そっか、そんなに慌てるなんて可愛いね」
そう言いながらデレシアはエルマーのほっぺにキスをしたので顔が赤くなり俯いてしまう。
母親だからこれが普通なのかも知れないけどちょっと照れ臭いな、それにしてもかなりの子供扱いだな。まぁ見た目がこれだからいいか、悪い気はしないしな。
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