第2話 両親とご対面
この世界が平和である事を願いながら記憶を探るが何故だかエルマーはこの世界の情報を全くと言っていい程知らない。
どうしてなんだ。こいつはこの世界どころか村の事すら分かってないじゃないか。それにこの村には学校も無ければ子供だって一人もいやしないぞ、どうなってるんだ?
まぁいい。人と繋がりを持ちたくない私にとっては良い事かも知れないな。慌てずにゆっくりこの世界を知ればいいんだ。
さて、この世界ではどんな風に生きてみようかな、前回みたいに【ニート】は止めておこう。まさかゲームに夢中になり過ぎて死ぬとは思わなかった。
今度こそ素晴らしい人生を送りたいからたまには過去を振り返って反省でもしてみますか。中には良い人生があったような…………。
【勇者】……駄目だ。魔王に負けたじゃないか。二度も殺されたんだぞ。
【国王】……駄目だ。誰かに毒殺されたんだよな。
【商人】……駄目だ。商才がなさすぎたんだよな。何度もつぶしたっけ。
【闇商人】……駄目だ。敵に呪い殺されたじゃないか。
【宿屋経営】……駄目だ。大きくなりすぎて過労死したじゃないか。
【魔道具屋】……駄目だ。失敗して爆死したんだよな。
【治療院】……駄目だ。あれには悲しすぎる思い出があるな。くそっ。
【騎士】……駄目だ。規律規律五月蠅いんだよな。
【遊び人】……駄目だ。あれこそ自滅じゃないか。
【鍛冶屋】……駄目だ。あの熱さはちょっとな。
【傭兵】……駄目だ。もう戦争はどうもね。
【神官】……駄目だ。結構大変なんだよな。
まだ他にも色々職業を試したがあまり成功したとは言えない。こんなにもチートなスキルを持っているというのにどうして私は上手くいかないんだろうか。もしかしたら女神はこれを見たかったのか?
もういい、今回は細々と仕事をしながら平凡に生きてやる。これが目標でいいだろう。
「エルマーちゃん、入るわよ」
ベッドの上で考えていると言葉の終わりと同時に小柄で可愛らしい女性が部屋の中に入って来て私を見るなりその綺麗な瞳から大粒の涙を流し始めた。最初は誰だか分からなかったが直ぐにエルマーの記憶からその女性が母親のデレシアである事を認識する。
「あぁ良かった。起きているじゃない。ねぇ大丈夫なの」
「そうですね、ちょっと体調が悪かっただけだからもう心配しなくても平気ですよ、お母さん」
「全然大丈夫じゃないじゃない。どうしたのよ」
怪訝な表情を浮かべながら慌てた様子で額と額をくっつけるのだが健康体であるエルマーは平熱でしかない。
何処がおかしいんだ? あっそうかエルマーの話し方にするのを忘れていたな、それにしてもエルマーか、随分と懐かしい名前だな。
「もう止めてよお母ちゃん。ちょっとおじさんの真似をしただけだよ」
「そうなの、いきなりそんな事をするのはやめてよね、本当に大丈夫なのよね」
「うん」
「だったら降りて来なさい。朝食の準備が出来ているわよ」
デレシアは部屋を出て行ったのでタンスの中から服を取り出して着替えながら今迄のエルマーの口調や行動の仕方を思い出していく。
本当の私は何歳と数えたら分からないが、今のエルマーの真似をするのは少し恥ずかしいな、それにしてもこの村の規模にしては随分と立派な家じゃないか、これがこの世界では当たり前なのか?
記憶を思い出していくとこの家だけではなくこの村に違和感を感じるがエルマーの記憶はこの村しかないので比較のしようがない。
釈然としない思いを胸にしながら食堂の中に入って行くと頑丈そうなテーブルの向うにはこの世界の父親が座っていてデレシアはその上に料理を並べていた。
父親であるフーゴは私のこの身体とはまるで違っていて大柄でその服の中にははち切れんばかりの筋肉があるように思える。顔はそれなりなので似ていなくて良かったと思ってしまう。鋭い眼光から察するにフーゴは普通の仕事はしていないように思える。残念ながらエルマーは父親の仕事すら知らないようだ。
一方のデレシアは小柄の割にはスタイルが良く顔も整っているのでそちらに似た私は将来が楽しみだが身体まで似てしまったのか華奢なのはどうにかしなくてはいけない。ただ不思議なのはエルマーの中にデレシアが家事をしている姿が一度も無い事だ。
何なんだこの違和感は? もしかしてフーゴは盗賊なのか? ここは盗賊の村だから子供が一人もいないのか?
「おいっ何で突っ立ってんだ。早く座れよ、それともまだ具合が悪いのか?」
「ううん、ちょっと寝ぼけているだけ」
「そうか、あのなお前の10歳のお祝いに今から王都に連れて行ってやるからな、まぁそこがどんな場所なのかは行けば分かるさ」
盗賊が王都に行く訳は無いか、だとするとコソ泥だったりして。
あ~なんか嫌だな、どうせなら普通の家に転生したかったよ。
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