第2話 口裂け女
今回は『口裂け女』という都市伝説について語ってみましょうか。
口裂け女は七十年代の終わりに日本で流布された都市伝説です。当時は口避け女のために全国の小学校では集団下校が行われるなど、社会問題になっていたと言いますから凄い話です。
さて、口避け女がどのような都市伝説か、ご存じの方は多いでしょう。マスクをつけたロングコートの女が「ワタシキレイ?」と訊いてくる。その質問に答えると女は「コレデモ?」と言ってマスクを外す。そこには大きく裂けた恐ろしい口が!
当時は社会問題になっていたそうですから、真面目に恐れられていたのでしょう。そんな口裂け女、恐ろしい脚の速さで襲いかかってくる、ようですが対処法も存在します。
口裂け女への対処法。有名なものでは「ポマード」と三回唱える。と聞いたことのある人は多いのではないでしょうか。僕は幼い頃、口裂け女には、こうやって対処するのだと聞きました。
なぜ口裂け女にポマードという言葉が有効なのか、それは諸説あると思います。僕が聞いたものだと整形手術で女の口を裂いた医者が、ポマードをベッタリ塗っていたために、女はポマードがトラウマになっているのだとか。
また、口裂け女への対処法は複数存在し、中でもユニークなものですと、べっこう飴で口裂け女の気をそらす。なんてものもありますね。
べっこう飴が大好きで、それを使って気をそらすことのできる怪異。こう言うと途端に怖さが消え、なんだか間が抜けているようにすら思えてきます。どうしてそんな設定がついてしまったのか。恐らくは当時の子どもたちによるものでしょう。
口裂け女という都市伝説は当時の子どもたちの間で急速に広まりました。都市伝説が広まり始めた時、それは多くの子どもたちにとって本当に恐ろしい存在だったのでしょう。
しかし、全国の少年少女を恐怖させた噂に対し、子どもたちは噂で立ち向かって見せたのです。恐怖の存在にポマードやべっこう飴といった弱点を後付けすることで、その恐ろしさを和らげようとしたのでしょう。そして、その試みは成功したように思えます。
口裂け女は有名な存在であるがゆえに、弱点も多くの人に知られています。弱点さえ分かっていれば、口裂け女は倒せます。思うに当時の子どもたちは噂に噂をぶつけることで、ひとつの怪異に勝ったのです。
どんな恐ろしい怪異も、性格や弱点を付け加えられてしまうと、途端にキャラクター化してしまいます。棒掲示板で広まった八尺様という怪異も怖かったはずなのに、いつの間にかエッチなお姉さん妖怪になっています。
人の想像力は恐怖を産み出しますが、同時に恐怖を乗り越えることもできる。
僕はそう思います。
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