金属ゼリー

 金属のゼリーを一匹倒すと瞬く間に俺のレベルが5から21まで上昇していた。

 あまりにも急成長したせいで体全体を筋肉痛のようなものが襲ってくる。


 それは回復魔法でも治癒効果がなく、ただひたすら耐えるしかない。


 それでも確実に成長はしていることと、落とし穴の罠に金属ゼリーが引っかかってくれるまでは待ちしかできないために木の上に簡易的な寝床を作り、のんびりと待つことにした。



 それから一時間ほど経っただろうか?



 軽い仮眠をとってしまった俺が落とし穴の様子を見に行くとなぜか至る所に金属ゼリーが落ちていて、這い上がれる様子がなかった。


 いや、あまりにも数が入りすぎている場所は一番上にいるゼリーだけがはいずり出ているところもあるが、とにかく大量収穫に成功してしまったようだ。


 ……またあの痛みと戦うのか。


 あまり気が進まないながらもせっかく捕まえた金属ゼリーを逃す理由にもならない。


 でも、こうも簡単に金属ゼリーを捕まえてレベルがあげられるのに、なんで誰もしないのだろう……?


 痛みと戦いながら考えるが答えは出ない。

 でも理由は単純で魔物を倒してる人たちは基本的に自分の収入のために戦っている。


 かなり装備を摩耗してしまう森の奥までやってきた上で、魔力まで消費して金属ゼリーを捕まえて倒しても自身は強化されるかもしれないが、収入はほとんどない。


 というのも金属ゼリーだけではなく、ゼリー系に統一して言えることなのだが、こういった軟体生物を倒すには体の核を壊すしかない。

 ただ、今の形を形成しているのが核のために壊してしまうと体が崩壊してあとには砕けた核しか残らない。


 そして、その核の残骸なのだが、どのゼリー系も同じものなのだ。

 地形等によって作られる体が違うだけ、というのがわかっている。


 つまりなかなか倒せない金属ゼリーを倒しても、弱いその辺のゼリーを倒しても収入は同じ。

 生活をしていくためになら弱い方を倒すに決まっている。


 そして、自身を鍛えるために戦う人たちは主に技能も磨くために自身に見合った魔物を倒していくのだ。

 金属ゼリーはあくまでも経験値を大量にくれるだけ。

 だから金属ゼリーだけ倒していてもレベルは高いけどスキルは弱い。みたいな状況になってしまう。


 更にスキルはそれぞれ上がりやすい適正レベルというのが存在する。


 初期スキルだとレベルが低い方が上がりやすいし、上級スキルだとレベルは高い方がいい。


 そのあたりの塩梅も考慮するとひたすら金属ゼリー倒しもあまり良いとは言えないのだ。

 でも十分にスキルレベルが上がっているのならそれは関係なかった。


 ひたすら魔力回復薬で魔法を鍛えまくった俺からするともはやレベルは早く上げたいものになっている。

 だからこそ倒しては休み、倒しては休みを繰り返した結果、俺は一晩で魔王討伐の適正レベルまで上昇させることに成功していた。



 そして翌日。

 俺自身はもうだいぶレベルが上がりにくくなってしまったので、次は金属ゼリーの王を狙いたいところだったが、ルッカ自身のレベルも上昇させる必要があったのだ。

 彼女も魔族の割には身体能力が低い。

 それを補うためにはやはりレベルを上げるのが一番手っ取り早い。


 レベル99の魔法使いなら雑魚敵くらいだと殴って倒せるようになる。


 ルッカにもそのくらいになってもらいたい。

 俺の代わりに魔王役をしてもらうのだから、さすがに弱すぎては話にならなくなってしまう。



「えっと、ここで何をしたらいいの?」

「ルッカにはこの穴にいる金属ゼリーを倒してくれたらいいよ。適当に石を投げ続けたら倒せるからね」

「金属ゼリー……ですか?」



 ルッカが穴を覗き込むとそこには大量の金属ゼリーの姿があった。



「ひぃっ!?」

「大丈夫。あいつらは襲ってこないから」



 試しに俺が一つ石を投げて見せる。

 それを避けようともせずにまともに金属ゼリーは石を受けていた。



「こんな感じだ。繰り返せばいつか倒せるからな」

「わ、わかった」



 それからルッカが石を投げ続けるというシュールな光景が繰り広げられて、そしてようやく倒せたと思うと……。



「やった……。いたっ……」



 そのまま急激なレベル上昇で起こる痛みに苛まれ始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る