ウルフ
外出許可はあっさり出た。
ただし、まだ泊まりがけは禁止。あくまでも日帰りで行ける範囲に限られる。
ただ俺は勇者としてのスキルが使える。
つまり特定の位置まで飛ぶ転移魔法が使えるのだ。
さらに作中は町々しか登録できなかったのだが、実際は詳しい場所さえ覚えておけばどこにでも飛ぶことができる。
つまり毎日行けるだけ進んで転移すれば遠くへ行くことも可能であった。
それは大きな点である。
ただしばらくはカインたちが同行するという罠もある。
「今日はウルフを一匹倒すことを目標としようか」
カインが楽しげに言ってくる。
ウルフと言えば街の外にいる魔物としては最低ランクの弱い魔物である。
能力的には今の二人なら簡単に倒せるはず。
だからこそ外の魔物に慣れてもらうことが目的だった。
そして……。
「……さすがに簡単に倒しすぎじゃないか?」
目の前に積まれた大量のウルフ。
周囲を探索して、先制で倒しまくった結果、大量のウルフの死骸が積み上がったのだった。
「うーん、やっぱり経験値としてもおいしくないな」
「あの……、私、何もしなくて良いの?」
「ヒーラーは何かあったときに回復するのが役目だからな。まず生き延びることが優先だ」
「わかったよ」
俺たちのやりとりを見てカインは呆然としてる。
「俺、教えることがなくないか?」
「私なんて最初からなかったわよ?」
とりあえず生態系を壊さない程度に周囲の魔物を刈り尽くしたあと、更に強い魔物がいる森の方へと近づいてみることになった。
もちろん日帰りで出来る範囲なので、今日のところは見に行くのが目的である。
そのはずだったが……。
「思った以上に弱いんだな。森の魔物ってもう少し強かった気がするんだけど」
森の魔物達もあまりにもあっさりと倒せるものだから拍子抜けしていた。
「いやいや、ここの魔物達は冒険者でもそれなりに苦戦するんだけど……」
「単独で倒せる魔物だった?」
「俺ならなんとかだな」
「やっぱり瞬間的な火力はすごく高いのね……」
結局日が沈む頃に街に戻ってきたのだが、その後ろには大量の魔物の山が出来上がっていた。
◇◇◇
その日の夜、転移魔法で俺は森の方へとやってきていた。
目的はこの森の奥に住む金属の軟体生物である。
この森の奥だと確率は低いがメタルなゼリーが出てくるのだ。
それを一人で倒すことで経験値が大量に手に入る、ということだ。
もちろんすぐに逃げるしそう簡単に倒せない魔物だ。
それでも倒せたときが大きいので十分に狙う価値がある。
そもそも主人公がいる村の近くだ。
それほど強い魔物が存在しないのはお約束である。
ただ魔王を倒すには大量の経験値が必要になるのだ。
「うーん、いないな……」
夜中に家を空けていることがバレるともう街の外へ行けなくなるかも知れない。
……もう転移で出てこれそうだが。
一応ルッカが家に残っている理由の一つもそれであった。
両親が万が一に部屋に入ってきた場合に時間を稼いでもらう役目だ。
適当に最速で魔物を倒し続けること一時間……。
「いたっ!!」
ようやく金属のとろけたゼリーを見つけることができた。
敵がいないからか、ゆっくりと滑るように動いている。
当然ながらまともに攻撃すれば一瞬で逃げられるだろう。
逃げられないようにするには……。
「落とし穴か」
金属のゼリーが通りそうなところにいくつかの落とし穴を設置する。
落ちればいくら逃げ足が速くても意味がないだろう。
そんな風に思っていると……。
「あっ、落ちた」
もう少し警戒されるかと思ったがあまりにもあっけなく落とし穴に落ちてしまい驚いてしまう。
しかも地上には上がってこられないらしい。
「えっと、これってあの金属ゼリーだけが落ちるくらいの穴を作りまくったら経験値をもらい放題なんじゃないか?」
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