講師

 俺のやみ魔法を見たルッカは驚きのあまり口をぽっかり空けていた。



「今のって光の上級魔法じゃないの?」

「闇! 闇だ!」

「えっと、でもすごく光ったよ?」

「光あるところに闇もまたあるからな」

「うーん、よくわからないけどわかった」



 ルッカも納得してくれたので、今日のところはしばらく魔法の特訓をすることになった。


 ルッカの魔力が尽きるまでひたすら回復魔法を使ってもらう。

 その理由は超回復の原理で一度空になるまで魔力を使い切るとその反動で、回復したときには大きく成長するのだった。

 それで俺の魔力も大幅に上がっていたのだ。



「はぁ……、はぁ……。もう使えないよ……」

「それならこれを使うといい」

「これは?」

「魔力回復薬だ。強制的に魔力を回復してくれるから再び魔法を使えるようになるぞ?」



 笑顔で言ったつもりなのになぜか絶望的な表情で返してくる。



「あ、あの、私、もう結構頑張って……」

「大丈夫だ。今日はこれをあと十回して終わりにするからな」

「えぇぇぇぇ!?」



 目をまわすルッカ。

 ただ、結局最後まで魔法の特訓を続けてくれるのだった。




 ◇◇◇




 講師がくるまでの一か月間。

 俺たちは主に魔法の強化を重視して鍛えていた。


 魔力回復薬による強制魔法訓練は思いのほか成果を発揮し、ルッカはあっという間に上級回復魔法すらも扱えるようになっていた。



「わ、私がこんなに魔法を使えるようになるなんて……」



 元々魔族の中でも魔法に特化した能力を持っていたルッカ。

 ある程度なら成果を発揮してくれるとは思っていたが、思ったよりも早く成長してくれたようだ。


 単純な魔力量ならすでに俺も抜かされかけている。


 そもそも勇者である俺の適性はバランス型でそれぞれの特化型にはとてもじゃないが勝てない。

 だからこそ特訓量を増やしていた。



「さて、今日は噂の講師がくる日だな」

「えっと、私もここにいていいの?」

「もちろんだ。ルッカも鍛えてもらいたいからな」



 そこでルッカから真っ青な顔を向けられる。

 さすがに俺のような無茶な特訓はしないだろう。


 そう思い、木剣を持って集合場所である中庭へとやってきた。

 するとそこにいたのは剣士と魔法使いの二人組のパーティーだった。


 大人の男女二人組なので恋仲なのかもしれないが、そういうことを聞くのは野暮である。



「君が僕たちに剣と魔法を教えてほしいっていうアルトゥール様かな?」

「はい。アルトゥール・フォン・ライツ・ユルグノアです。でもユルグノア家の三男で将来的にはこの領地を出るので、敬称はいらないですよ」

「それなら助かるよ。僕はAランク冒険者のカイン。こっちはイル。今日から君たちの講師に来た者だよ」

「あ、あの……。私はルッカ……」

「……上手にできた」

「あうぅ……」



 イルと言われた魔法使い風の姿をした女性に頭を撫でられてルッカは恥ずかしそうに深々とフードを被っていた。



「まずは君たちがどのくらい戦えるのか見せてもらう。そのうえで外に行けるかどうか判断させてもらうよ」



 そういうとカインは剣を向けてくる。



「……わかりやすくていい」



 イルもカインの後ろに控えて杖の準備をする。



「あ、あの、アル様。私はまだまともに戦ったことは……」

「大丈夫。俺に防御魔法をかけてくれるだけでいい」

「わ、わかったよ」



 剣を構え、カインと向かい合う。



「訓練だ。まずはそちらから攻撃してくれていいよ」



 やはり上位冒険者である。

 かなり余裕があるようで初めの攻撃を譲ってくれるようだった。


 せっかくだから今の俺の最大攻撃がどの程度のダメージになるか試してみるのも良さそうだ。


 そんな軽い気持ちでやみの最大魔法を使ってみることに。



光の裁きダークピアーズ

「えっ!? 闇魔法!?」



 やっぱりわかってくれる人にはわかるんだ。

 満足げにしていた俺であったが、カインはまるで違う考えだった。



「くっ、詠唱を破棄して、しかも別呪文名まで唱えるとは。イル、防げるか!?」

「さすがに上級魔法は無理」

「ちっ、仕方ない。おりゃぁぁぁぁ!!」



 木剣に思いっきり魔力を纏わせて魔法を切りつけるカイン。

 それでも完全に防ぎきることはできずに体中に傷を作っていたのだった。

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