指導者
ルッカと共に魔物を狩るために街を出ようとした。
ただ、当然ながら街の出口で領兵に止められてしまう。
「アルトゥール様、どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっと外で魔物を狩ってこようかなって」
「そんな危ない真似、領主のご子息であるアルトゥール様にさせられませんよ!? ご指示をいただけましたら我々が狩ってまいりますので」
「いや、それだとレベルが上がらない……」
そこでふと口を閉ざす。
俺は鑑定で人のレベルや能力を見ることができる。
でも、ルッカの話では魔族は角の大きさで能力を判断しており、彼女の特製も気づいていない様子だった。
確かにルッカには魔族の特徴たる角は片方にしかなく、その大きさもかなり小さい。
さらに普通の魔法は使えないのだが、その分回復魔法の素質はあるし、潜在魔力は圧倒的である。
そのことがわかっていたら追放なんてしなかっただろう。
特に魔族で回復魔法を使える奴なんてほとんどいないのだから。
そのことからもレベルという概念が他の人にはなさそうであった。更にそれを考慮するならば魔物を倒してレベルを上げる、なんていっても理解してもらえない可能性が高い。
「……わかった。今日のところは諦める」
「今日だけじゃないですよ」
「それは約束できかねるな」
結局街の外へは出ることができず、仕方なく俺たちはそのまま屋敷へと戻ることになったのだった。
◇◇◇
屋敷に戻ってくるなりマリーエルが抱きついてくるのでそれをさっと躱す。
「もう、アル君は照れ屋さんなんですから」
「突然の襲撃を躱すのは当然ですよ」
「襲撃じゃないですよ。家族のスキンシップです。あらっ?」
マリーエルの視線が俺の後ろで怯えながら小さく縮こまって隠れているルッカへと移る。
「あらっ」
「ひっ」
「あらあらっ」
逃げ出そうとするルッカはマリーエルの攻撃を避けることができず、抱きしめられていた。
「アル様、助け……」
「アル君、こんな可愛い子をつれてきたなんて聞いてないですよ。もっと早く教えてくれたらよかったのに」
なんとか逃げようと足をバタつかせていたが、残念ながらマリーエルに一度捕まってしまってはそう簡単に逃れることはできない。
それは何度も身をもって体験している。
それほど力のステータスがあるわけではないので、純粋に関節を決めて逃れられないようにしているのだろう。
「お母様、そのくらいにしてもらえますか?」
逃れられないとわかったルッカは精神的な疲れからぐったりとしていた。
「あらあら、こんなつもりじゃなかったんですけどね」
マリーエルがようやくルッカを話すと彼女はふらつく足取りのまま、俺の後ろに隠れてしまう。
「それよりもお母様、お願いが……」
「うーん、さすがにそれは早いわね」
「……まだ何も言ってないですよ?」
「兵士の方から連絡があったんですよ。アル君、街の外へ行きたいんですよね?」
「えぇ、自分を鍛えるために魔物と戦いたくて」
「さすがに今のアル君だと魔物に倒されそうですから許容できないですね」
「それならどうすれば許可をもらえますか?」
「だめ……といったらアル君だと勝手に出て行きそうですよね?」
確かに許可が出なければそうするつもりだった。
ルッカも幸いな事にフードを被れば“隠密”効果が付与されるのだからなんとか外へ出る方法もあるだろう。
俺ならやりかねないと思っているからこそマリーエルはため息を吐く。
「それならアル君を指導をしてくれる人を呼びましょう。その方が魔物と戦っても問題ないと判断したら許可しますよ」
「約束ですよ!」
確かに勇者としてそれなりに潜在能力を持っているのだが、俺自身戦ったことはない。
正直、黒幕を倒さないといけないとわかってから訓練はしているもののあくまでも我流。
自分がどのくらいの強さを持っているのかさっぱりわからなかった。
「もちろんです。それじゃあ、剣と魔法、両方の講師を呼びますね」
「えっと、私のためにそこまでしなくていいんだよ?」
ルッカが俺の服を引っ張りながら言ってくる。
その可愛らしい姿にマリーエルの目が光っていたことを俺は見逃さなかった。
「アル君も男の子なんだね。小さい小さいって思ってたけど、好きな子のために格好いいところを見せたいんだね」
「えっ? そ、そうなの!?」
「そんなわけないだろ」
魔王役をやってもらう以上、ルッカにも俺の目的を話しておくべきかも知れない。
「アル君も年頃ですから素直じゃないですね」
「とりあえずその講師がくるまでの間にできることをしておく。行くぞ」
「あっ、は、はい」
俺はルッカを連れて部屋へ戻るのだった。
◇◇◇
部屋に戻ると俺は真剣な目つきでルッカを見る。
「ルッカに話しておくべきことがある。どうして俺が
ルッカは不安そうに息を呑む。
「本当ならもっと早く言っておくべきだったんだが、昨日から色々とあったからな」
「ご、ごめんなさい。私が倒れたりしなかったら……」
「いや、疲れが出たんだろうな。それは仕方ない」
「そ、それでどうして私を……?」
「それは俺の目的が魔王を倒すことだからだ」
その言葉を聞いたルッカは思わず涙を流す。
“そういえばルッカは姫。つまり魔王の娘だったな。さすがに考えなしだっただろうか?”
そんな考えが脳裏をよぎる。
しかし、それは考えすぎだったようだ。
「それは私のため……ですか?」
「いや、
「わかりました。そういうことにしておきます」
一切嘘は言っていないはずなのだが、ルッカは嬉しそうに笑みをこぼすのだった。
◇◆◇
(ルッカ視点)
“アル様、自分のためって言ってたけど、どう考えても私のためだよね?”
自分が魔王の娘って話はしてないけど、訳ありの魔族ってことは知られてる。
“追放された私が魔族に復讐したいって思ったのかな?”
確かに隻角だと石を投げられたり、力がないからと蔑まれたことを恨んでないかと言われたら嘘になる。
更に両親である魔王たちには直接命を狙われた上に、逃げた先では餓死しそうになった。
これを許せるほど私の心は広くない。
でも、そのおかげでアル様に出会えた。
過去の恨みよりも私はアル様のためになりたい。だから……。
「アル様に無茶はして欲しくないな」
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