第16話 メイガス村跡地

 ジオルド王国とコルデア王国が領有権を主張するサネガル地区にあるメイガス村跡地に私は連れられた。


 メイガス村跡地にはかつての村人達が使っていた建物等はほとんど形として残ってなく、人が宿泊で使えそうな建物はなかった。


 そのため今、メイガス村跡地にあるのは両国が新しく建てた駐屯地と、その間にある調印の場として使われる式場。


 この式場が私の引き渡し場所らしい。


 どうしてメイガス村跡地なのかは不明。


 クリス様が残した書類にもメイガス村跡地について書かれていた。


 これは偶然なのだろうか。


 クリス様、私、メイガス村跡地、賢者ラニエル物語、白竜。


 何か繋がりがあるのか。


 そしてコルデア王国は何を企んでいるのか。

 妾腹の娘を労わるという気はないはず。


 それはアデル様も考慮していてるが、明確な意図が今だに掴めていないようです。


 そのためジオルド王国側はきちんとした説明がないならば引き渡しはしないという姿勢を取っている。


「もう少しお利口になられては?」


 我が腹違いの兄でコルデア王国第1王子のデビット兄様が小馬鹿にした口調で言う。


「きちんとした説明をお願いします」


 アデル様はまっすぐデビット兄様を見据えて聞きます。


「説明も何も貴方の国では、もうそいつは用済みでしょ?」

「用済みだから返せと?」

「いけませんか?」

「たかだか用済みの者に対して第1王子様が伺うとはどのような了見で?」

「そちらもでは?」


 お互い険しく睨み合う。


「まあ、本日は長旅でお疲れのようですから、話はまた明日で」


 そして兄は私を一瞥した後、部屋を出ていく。

 その後で私は溜め込んでいた息を吐いた。


「どうした疲れか?」

「いえ、緊張で。まさかデビット兄様が来るとは思ってもいなかったので」

「確かに。ここは領有権を争っているとはいえ、次期国王陛下が来るのはおかしいな」

「それを言ったらこちらもですよ」

「私は……貿易等の件もあるからな」


 アデル様はそっぽを向いて答えます。


「ありがとうございます」

「気にするな。それにしても妹に対して言葉の一つもかけないとは、なんと薄情な男なんだ」


 式場を出た後、私とアデル様はジオルド王国の駐屯地に向かいました。


「ものものしいですね」


 駐屯地には深い堀に高い塀、櫓がある。


「見た目だけさ。実際、兵の数は少ない。そしてそれは向こうもだろう」


 そして一際堅牢な建物内に私達は入りました。階段を上がって2階へ。


「今日はそこの部屋を使うといい。私は奥の部屋だ。執務室は3階だ。夕食になったら使いを呼ぶ。それまで休んでおきなさい」

「はい」


 私は部屋に入り、ベッドに横たわります。そして腰を手でさすりつつ、大きく足を伸ばします。


 ここまで慣れぬ馬車で実は疲れていました。


 さらにその後、すぐに引き取り役のデイビッド兄様と会ったのだから、肉体的にも精神的にも疲労がありました。


 目を閉じると──意識が夢の中へと落ちました。

 いえ、それだけではありません。まるで肉体が地の底へ落ちるような感覚です。


 これは明晰夢というやつでしょうか。


 真っ暗な夢の中に私はいます。真っ暗なため視覚では落ちているのかどうかは定かではありませんが、確かに落ちているという感覚は不思議とあります。


 そして体が下から押される感覚が現れて、視界が晴れます。


 私は空の上にいました。そして私を乗せているのは白いドラゴンでした。


「あなたは?」

「私は見た目通りドラゴンさ。名前はブーシュ」


 声が聞こえてきました。それは頭に直接話しかけてくるような。


「以前、私の夢の中にいましたよね? というか今も夢の中?」

「ああ。ちょっと奴の子孫がどんなものか見たくてな」

「子孫?」

「賢者ラニエルだ。聞いたことくらいあるだろ?」

「つい最近知りました」


 クリス様が残した資料で最近知りました。


「…………ふむ。確か……勇者キリシュタリアだったかな? そいつの名は?」

「はい。ご存知です。というかその方が我がご先祖ですが」


 そして代々、精霊を受け継いでいる。


「やはりクリスの言ってたことは真であったか」


 ドラゴンのブーシュさんは悲しそうに言う。


「どういうことですか?」

「我は賢者ラニエルと精霊と共に魔神バランを封印した。そしてお前は賢者ラニエルの子孫だ」

「ご先祖は勇者キリシュタリアでは?」

「違う。そんなやつではない。おおかた賢者ラニエルより勇者キリシュタリアの方が都合がいいからそう言ってるだけだろう」


 なんてことでしょうか。

 もしこれが本当ならコルデア王国の根幹を揺るがす新事実です。

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