第17話 封印の補強
「もしそれが本当だとして、ええと、あなたは私に何か伝えたいことがあるのですか? それにクリス様とはお知り合いなのですか?」
「その件も含めて、お前に話がある」
「はい」
「この地には魔神バランが封印されている」
「ええっ!?」
魔神バランといえば、かつて賢者ラニエルに封印された悪い存在でお伽話のはず。
「そしてその封印がほころびかけている。それをお前の力で封じるのだ」
「私の力?」
「そう。精霊の力だ。ここ最近はやつの負の力が漏れ出て、大変なことになっている」
「漏れ出てって。今まではどうしていたのですか?」
「……」
ドラゴンはなぜか押し黙った。
言い難いことなのか。
魔神バランの負の力。それが漏れ出たとなると大変なことになるはず。
そう。それこそ──。
「もしかして……クリス様が?」
「うむ。あいつが漏れ出た負の力をクリスが背負っていた。しかし、クリスが亡くなった今──」
「どうしてクリス様が!」
「それはやつもまた賢者ラジエルの末裔であるからだ」
「クリス様も? ということはジオルド王国のマークライト家は……」
「そうだ。龍の一族としてマークライト家、精霊の一族としてお前の一族だ。そしてお前達は今から魔神バランの封印を補強するのだ」
「お前達……それは私と誰ですか?」
「何を言っている。ここメイガス村跡地にもう1人いるではないか」
ドラゴンはおかしいことをと笑う。
そうでした。ここはもう1人、マークライト家の方がいます。
「……アデル様ですか?」
「そうだ。2人で封印を補強するのだ。今から地上に降りるぞ」
「地上に。ん? 待ってください。ここは夢では?」
「正確には心象世界というべきだな」
ドラゴンは降下していく。私は振り落とされないように強く、ドラゴンの首に抱きつく。
風が私の髪をたなびかせる。
そしてドラゴンは地上に降り立った。
「着いたぞ」
「は、はい」
私は精霊の力でゆっくりと地へと降り立ちます。
ドラゴンが降り立ったのは開けた地でそこにはアデル様や我が腹違いのデビット兄様、そして両国の兵士がいました。
「無事か? それとどうして貴女がドラゴンと共に?」
「ええと少し空の上でお話をしておりまして──きゃっ!」
「大丈夫か」
地震で私はよろめきます。それをアデル様が私の体を支えてくれます。
「定期的に地震があってな。しかも空気が重い」
そういえば、どこかクリス様が受けた呪いと同じような。
「魔神バランが蘇ろうとしているのだ」
「しゃべったぞ!」
デビット兄様が驚きました。
「はい。それで空の上でお話をしていたのです」
私はドラゴンから聞かれたことをアデル様達にお話しました。
「そんなバカな話があるか? 何が賢者ラニエルだ」
デビット兄様が苛立ちげに言いました。
「嘘なのではない!」
ドラゴンが吠えました。
「っ!?」
怯えたデビット兄様は苦々しい顔して一歩引きました。
「これよりお前達2人が心象世界にある封印の地に向かってもらう。そしてそこで封印の補強をするんだ」
私とアデル様は見つめ合い、頷きました。
そして私達はドラゴンの背に乗りました。ドラゴンは翼を動かし、空へ浮上します。
◯
ドラゴンに連れられて辿り着いたのは8つの柱に囲まれた円形広場でした。
「そこの中央の窪みに力を流し込むのだ」
円形広場中心には小さい窪みがあります。
「待ってくれ! 俺は力なんて……」
「案ずるな。お前も賢者ラニエルの血を引くもの。ここ心象世界では意志さえあれば問題はない」
「……そうは言うが実感が……」
「ものは試し。やってみろ」
しぶしぶアデル様は中央にしゃがみ窪みに手をかざします。
「ん? 確かに俺の体から何かが出ている気がする」
「それが力だ」次にドラゴンは私に、「さて、お前もだ」
「はい」
私はアデル様の隣にしゃがみ、同じように窪みに向けて手をかざします。
するとどうでしょうか。アデル様がおっしゃったように体から何か抜けていく感じがします。
「それでいい」
力を流し込み続けると、円形広場が光り始めました。
「よし。これで封印は補強された」
これで魔神バランが蘇ることもなく、負の力が漏れ出ることもなくなりました。
「待て。話は終わってない」
封印の補強も終わり、帰ろうとした中、アデル様がドラゴンに向けて言いました。
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