第12話 客人③

「そういえばクリスお兄様のお部屋を調べてみてもよろしいですか?」

「お部屋ですか?」

「はい。クリスお兄様はサネガル地区を調べていました。それのメモか資料を見たいのです」

「分かりました」


 私達は2階のクリス様の執務室であろう部屋に入りました。

 あろうとはどういうことかと申しますと実際にクリス様がお部屋で仕事をしているところを私が見たことがなく、部屋の様相から執務室であろうと私が考えたまでです。


 アリーゼ様は本棚を差し込まれている本の背表紙に視線を向ける。

 一つ一つ、本の背表紙を見渡し、対象のものがないと分かると次の本棚に移る。


 私も別の本棚を眺めたり、書類棚の戸を引っ張り、中を調べ始めた。


「どうですか?」


 と、アリーゼ様が尋ねる。


「いいえ、サネガル地区に関するものは何もないです」


 そこで精霊がアデル様が屋敷に訪れたことを教えてくれた。


「アリーゼ様、アデル様が来たようなので少しは離れます」

「ええ」


 私は部屋を出て、階段を下りて、1階のドアに向かう。

 ちょうどドアに近づいたところでノックがされた。


「はい。お待ちくださいませ」


 私はドアを開ける。


 そこには精霊が教えてくれたとおりアデル様がいた。

 数時間前に屋敷に訪れ、エルザ様とメリッサ様達と共にお帰りになられたはず。


「何かお忘れ物でしょうか?」

「いや、そうじゃない」

「クリスの件でな?」

「クリス様の?」

「クリスの執務室を調べてもいいか」

「はい。こちらへ」


 私はアデル様を2階へと案内する。


「実はアリーゼ様はも来ていらっしゃるのですよ」

「アリーゼも? どうして?」

「サネガル地区についてです。今、アリーゼ様もクリス様の執務室で調べ物をしておいでです」

「あいつもか」


 そしてクリス様の執務室へと私達は入る。


「お前も調べているのか?」

「ということはお兄様も?」

「まあな」


 アデル様は部屋を見渡し、


「で、何か見つかったか?」

「いいえ」


 残念そうにアリーゼ様は首を横に振る。


「なら、寝室だ」

「寝室ですか?」

「ああ。容体が悪くなる少し前からは寝室で仕事をしていたはず」

「なるほど」


 そして私達はクリス様の寝室へ向かいました。

 まず調べたのは部屋に唯一ある書類整理棚。

 アデル様が棚の書類を調べ始める。

 棚の中には書類がいくつかあるだけだった。


「何かありましたか?」


 アリーゼ様が後ろから問う。


「ないな」


 そう言ってアデル様が書類を元の場所に戻す。


「空振りですか」


 と、アリーゼ様が息を吐く。


「ティアナ、他に書類や本がある部屋はあるか?」

「ええと……あとは応接室と私の部屋でしょうか?」

「どうして貴女の部屋に?」

「本棚がもとから部屋にありまして、そこに本が差し込まれていました」

「ああ! そうだった。そこは元々書室に使おうとしていたんだ」


 なぜそんなことを忘れていたんだとアデル様は悔やみました。


「なら、貴女とアリーゼは部屋を私は応接室に」


 そして私とアリーゼ様は私の部屋に。


「確かに本がいっぱいね」


 本棚は一つですが、高さと広さがあります。


 私とアリーゼ様は背表紙を眺めます。

 基本的に学術書が多く、セネガル地区に関する本はありませんでした。


「ないですね」

「ええ」


 アリーゼ様は一冊の薄い本を抜き取りました。そして本を捲ります。


「その本が何か?」

「あ、いえ、この腕輪伝説って、勇者キリシュタリアのことだなと思いまして」

「腕輪伝説?」

「ええ。ご存知ありません?」

「はい。初耳です」

「我が国の話ですからね。ここからずっと北にアポト山がありまして、その麓にある小さい村に伝わるお伽話です」


 なるほど、コルデア王国ではなくジオルド王国のお話ですか。それなら私が知らなくてもおかしくない話ですね。


「……ないですわね。手紙の一つや二つ、挟まれていてもいいのに」

「手紙ですか。そういえば、タンスに封筒がありました」

「タンスに?」

「ええ。一つだけ」


 私はタンスを1番上の戸を開けます。そこには私がここに来た時からあった茶封筒が1つあります。


「これです」


 私は茶封筒をアリーゼ様に渡す。


 受け取ったアリーゼ様は茶封筒の中身を取り出します。

 中には数枚の紙が入っていて、そこに書かれていたのが──。


『廃村されたメイガス村と、かつてサネガル地区にあった村々と賢者ラニエル伝説について』


「これは当たりですね」

「賢者ラニエル……聞いたことがありません」

「私もです。これは一体?」


 そこへドアがノックされた。


「はい」

「私だ。ドアを開けても?」

「よろしいですよ」


 私が許可するとアデル様がドアを開ける。ただ、中には入ってこなかった。


「入ってもよろしいですよ」

「しかし、婦人の寝室を……」

「お兄様、それよりこんなものを見つけましたわ」


 と、アリーゼ様が茶封筒と紙をアデル様へと見せる。


 紙に書かれていた文字を読んで、アデル様は驚き、足を踏み入れる。


「見つけたのか!」

「お兄様、嬉しいのは分かりますが、ここは婦人の寝室ですわよ。興奮してはいけません」

「語弊のある言い方をするな。それに許可は得ている」

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