第9話 伝承

 アデル様と城内のお部屋に入ると第1王女メリッサ様は第3王女マナベル様と第4王女アリーゼ様とご歓談中のようでした。


「失礼する」

「あらアデル、どうしたの? ……そちらはティアナさんですわね?」


 メリッサ様が私に聞く。


「はい。ティアナでございます」


 私は丁重にご挨拶する。


 メリッサ様は王族の者とは違い、黒髪であった。

 いえ、第4王女のアリーゼ様も銀髪でした。隔世遺伝というものでしょうか?


「姉上、カトレアは?」

「あの子は娘達と共にお庭に出かけたわ」


 そしてメイド達に席を用意させ、私達を座らせる。


「きちんとお話しするのは初めてよね」


 と、私に向けてメリッサ様が話しかけてくる。


「はい。この度はお役立てず申し訳ございませ」

「お役って……あなたは十分なくらい頑張ってくれたわ。聞いてるわ。クリスのために色々してくれたのでしょ?」

「たいそうなことはしておりません」

「それにクリスの伴侶にさせて申し訳ないくらい。あなたにバツをつけてしまってこちらが申し訳ないくらいよ」

「お気になさらず」

「ねえ、貴女はこれからどうするつもりなの?」


 マナベル様が私に今後のことについて尋ねてきました。


「マナベル!」


 アデル様がすぐに叱責しました。


「あら? 聞いてはいけなくて?」

「少し失礼だろ」

「そうよ。マナベル」

「すみません」


 メリッサ様にも叱られ、マナベル様は私に謝られた。


「いいのですよ。急なことばかりですもの」


 婚姻からクリス様の死まであっという間。中には私を疑うのもおかしくはない感じです。


「婚姻は済ませているのよね?」


 メリッサ様の問いに私はアデル様を窺い、「そうですよね?」と聞く。


「ああ。手続きは済ませている」

「お兄様、お仕事早すぎ。もう少し待ってあげたらよろしかったのに」


 マナベルが呆れたように言う。


「それだとクリスは婚姻せずに亡くなったことになるが?」

「ううっ」


 アデル様に言い返されてマナベル様は顔を歪める。


「あのう。どうしてそんなに婚姻が必要なんですか?」


 生きているうちに結婚していないといけない言い方に聞こえる。


「今回の婚姻には色々あるんだ」

「そ、色々とね」

「マナベル、分かっているなら説明してみろ」

「えー」


 マナベル様が嫌そうな顔をする。そしてメリッサ様に助けを求める視線を向ける。


「マナベル、言ってあげなさい」


 助けがなかったため、マナベル様が語り始める。


「1つはコルデア国との友好ね」

「それで?」


 アデル様が続きを促す。


「2つ目はクリスの呪いを解くため」

「ええ」


 メリッサ様が落ち込み気味に答える。きっとそこに呪いを解く期待があったのだろう。


「3つ目は龍の伝承ね」

「龍?」


 この前、白いドラゴンの夢を見たため声を出して反応してしまった。


「ええ。龍の伝承よ」


 マナベル様がしたら顔で答えるが、すぐにアデル様に「そうよね?」と聞く。


「ああ。続けてくれ」

「えっとね、うちの国ではね、第3王子はオリーブの祝福を受けたら婚姻しないと駄目っていう風習があるの」

「オリーブの祝福?」

「18を越えると教会で儀式を受けるの。それがオリーブの祝福」

「なるほど……ん? クリス様は18ではなかったはずでは?」

「そうなのよ。諸々の事情でクリスは16なのにオリーブの祝福を受けちゃったのよ」

「で、貴女との婚姻が進められたということだ」


 最後をアデル様が締め括った。


「もしかしてオリーブの祝福を早めに受けたので呪いが?」

「一応その件も考えてみたが、それはないだろう」

「しかし、第3王子のみが婚姻しないといけないという伝承は一体? 何かあるのでは?」

「文献もない口伝でな。起源も龍のこともさっぱりだ」

「前にサネガルへ行ったのでしょ? そこで何か分からなかったのかしら? 龍の伝説で有名なところなのでしょ?」


 今まで黙っていた第4王女アリーゼ様が口を開いた。


「クリスは何も分からなかったと言っていた」

「龍の伝説ですか?」

「ティアナ様は気になりますか?」


 なぜかアリーゼ様の黄水晶シトリン色の瞳があの夢に出た白いドラゴンの瞳と重なりました。


「ティアナ様?」

「あっ、いえ、少しばかり気になりまして」


 なぜか私は目を伏せて答えた。


「あの地区はコルデア王国も領有権を主張している地区ですよね。コルデア王国側から何かサネガルに関する伝承とかありませんか?」

「聞いたことは……ありませんね。そもそも王国内でも龍に関する伝承はありません。精霊の伝承が多いですが」

「精霊ですか。今度、精霊のお話をお聞かせください」

「はい。私でよければ」

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