第8話 告別式

 クリス様がお亡くなりの後、ご遺体は魔法省からの大臣、検死官、神官、呪術専門の魔法使いの方々により、調べられました。そしてその席に精霊使いというわけでアデル様と私も同席されました。


 検死部屋は暗く、クリス様が置かれている寝台以外、明かりがありません。


 解剖とかがあるわけではなく、魔法アイテムによるご遺体の反応を調べるものでした。

 そんなに時間はかからず、あっさりと終わりました。


 それもそうでしょう。なぜなら──。


「呪いは……ないようですね」


 魔法省の大臣が告げました。どうやらそれが魔法省の総意のようです。


 それを聞いてアデル様は私に意見を求める目を向けました。


「私も呪いはないかと」


 もうクリス様のご遺体からは何もありません。


「そうか。まあ、死後も呪いが付き纏うことはないしな」

「告別式をされても問題はないかと」

「分かった。で、呪いの原因は何か分かったか?」

「いえ、残念ながら何も」

「ティアナは?」

「私も何も分かりません」


 アデル様はぎゅっと目を瞑って、息を吐く。クリス様の呪いの原因が分からず、悔しいのだろう。


「あとでこの件を書類にして父へ」


 アデル様は魔法省の大臣に命じられました。


「はい」


 返事を聞くとアデル様は足早に検死部屋を出ました。

 

  ◯


 クリス様の告別式はつつがなく執り行われました。


 婿養子になった第2王子と嫁いだ第1・2王女様が戻られました。第3王子は残念ながら間に合いませんでした。


 彼らは皆、城に着き、そうそうと泣いておられました。特に第1王女は泣き崩れ、その後も塞がれてしまわれるほど。

 そのため、私は第1王女様だけはご挨拶ができませんでした。


 そして式場の外には献花台が設けられ、国民が長蛇をなして、皆が悲痛な面持ちで花を手向けておられました。

 それだけクリス様は国民に愛されていたのでしょう。


 ただ幼いエルザ様はまだいまいちピンときていないようでした。

 それは仕方のないこと。

 キョトンとし困惑もされていました。それでも周りの空気からじっと大人しくしておられました。


  ◯


 クリス様亡き後、この屋敷には私1人が暮らしておりました。

 呪いはもうかすりもなく、ここはもう普通のお屋敷です。


「もうここに住む必要もない。城に住む気はないか?」


 告別式から三日後、アデル様が屋敷に訪れました。


「ご厚意ありがとうございます。しかし、私はここで構いません」


 私はこの国の者でもないですし、クリス様との婚姻も訳あってのもの。ゆえに城に住むのには抵抗がありました。

 ただでさえ、ここで何もしないで暮らすというのも恥ずべきものがあります。そこへ城への暮らしは贅沢としか言えません。


「第1王女のメリッサ様の具合はどうですか?」

「ああ、大丈夫だ。もうクリスの死を受け入れたようだ」

「メリッサ様は大変クリス様を愛しておられたのですね」

「そうだな。歳が離れていたからな。クリスが赤ん坊の頃はよく面倒をみてたよ」

「では、ご挨拶に向かっても問題はないでしょうか?」

「……そうか! まだちゃんと挨拶をしていないんだな。よし、今から行こう」


 そう言ってアデル様は立ち上がる。


「今からですか?」

「ああ。それともこの後に何か用があるのか?」

「いえ。ありません」

「また塞がられては面倒だ。行くぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る