第3話 第3王子と呪い

 第1王子アデル・マークライトは驚くべき美貌のかただった。


 輝くような金髪に相手を射止める目を持ち、優しい微笑みを持つ。一体何人の乙女の心を悩ませたのだろう。


 ただ、私に対しては警戒の色をお持ちのようで、どこか対応も刺々しかった。

 その態度から察するに私は快く歓迎されていないのがわかる。


 そして私は今、第3王子クリス様がいるという屋敷にアデル様に案内されて足を向けていた。


 その屋敷は城から少し離れたところにあり、奇しくも私のいた屋敷みたいだと感じた。もしかしてクリス様も私と同じご身分なのではと考えた。


 そうこう考えているうちにクリス様がいるという屋敷に辿り着いた。クリス様のいる屋敷はとても禍々しく、鈍感な人でもここが人が容易に近付けるものではないと感じるほど。こんなとこに住み続けたら心だけでなく、体を壊してしまうはず。


 それならば、どうしてクリス様はここにお住まいなのか。


 屋敷に入ると体が重くなった気がした。

 それだけ呪詛が強いということだろう。

 私は精霊を使い、呪詛を軽減させる。


「何かしたのか?」

「はい。呪詛が重かったため。……先の件といい、もしかしてアデル様は精霊が見えるのですか?」


 カバンの件も精霊のものと見破っていた。


「いや、見えない。私は貴女が指を動かしていたから何かをしたと考えただけだ」

「そうでしたか」

「もしかしてこの呪いを解くことが出来るのか?」

「残念ながら」


 私は申し訳なく、首を横に振る。


「そうか」


 アデル様は少し残念そうに廊下を進む。


 屋敷内の柱一つ一つには魔除けや解呪の札が貼られている。しかし残念ながらそれら札の効力は微々たるもののようだ。


 それだけ呪詛の力が強い。


 アデル様はドアを開ける。


「ここがお前の部屋だ。好きに使うといい」

「ありがとうございます」


 私は精霊を使い、カバンを部屋に置いてもらう。


「こっちだ」


 アデル様は廊下奥の部屋へ向かい、私はその後を歩く。

 なぜ私の部屋とクリス様は離れているのかしら。


 アデル様はドアをノックする。


「私だ。中に入るぞ」


 部屋の中から小さく返事があり、アデル様はドア開ける。


 その瞬間、黒い風が廊下へと這い出るのが見えた。

 すぐに私は精霊の力で呪いを打ち消す。


「すまない」


 アデル様が私を見て言う。


「いえ」


 そして私達は部屋の中へと入る。


 部屋は大きく四方の壁には札がびっしりと貼られていて、札以外にも魔除けのアイテムが部屋の中に置かれている。


 部屋には大きめのベッドがあり、クリス様らしき少年がうっすらと汗をかき、顔を赤らめていました。

 私はどうしてこんな屋敷にクリス様がいるのか判明致しました。


 屋敷ではないのです。

 クリス様自身が呪いの中心。


「クリス、大丈夫か?」

「うん。なぜか2人が入ってきたら体が軽くなったよ」


 そう言うものの、クリス様は無理に笑っているようだ。


「そちらの方は?」

「ティアナだ」

「お初にお目にかかります。ティアナ・ガスティーヌです」

「貴女が。僕はクリス・マークライト。この様なお姿で申し訳ございません」

「いえいえ、お気になさらず」


 クリス様はアデル様を幼くしたような出立ちの方でした。


「今日から彼女はここに住むことになる」


 しばらくクリス様はキョトンとしていたが、すぐ理解したようで、


「ああ、そうか。僕の……。本当にすみません。僕は反対したんですが……。貴女の人生を僕の命で縛ってしまい申し訳ありません」


 クリス様は本当に申し訳ないように頭を下げる。


「頭をお上げ下さい。私は大丈夫です」

「そう言っていただき恐縮です」

「恐縮だなんておやめください」


 そこでアデル様が咳払いをする。


「クリス、もう休め」

「で、でも」

「彼女の屋敷案内は俺に任せろ。だから横になって眠れ」


  ◯


「どうだ? 呪いを解けるか?」


 部屋を出るや、アデル様が私に尋ねてきた。


「無理です。あくまで軽減するだけです」

「それは延命が可能と?」

「いいえ。違います。クリス様から溢れ出た呪いを軽減するのであって、クリス様自身の呪いは解くことは出来ません」

「しかし、クリスは先程、私達が入ると体が楽にと」

「それは嘘でしょう」

「っ!?」


 そんな嘘を見抜けなかったことを悔やみ、アデル様は額に手を当てる。


「それで貴女はここにいて平気なのか?」

「はい。平気です」

「なんなら城で一室設けることも可能だが?」


 私は首を横に振る。


「いいえ。ここで構いません。ここは前いた屋敷と似ているので落ち着きます」

「呪われてたのか?」

「違います。屋敷の造りが似ているだけです」

「そ、そうか」

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