第16話 新たな一歩ー1
数日後。
「では、ノア。私の治療も終わったので、一度帰るとする。これでフェザーフィールド子爵領にくるように。セカンダリからなら五日後に魔導飛行艇が出ている。それとこれを」
そういってガイヤさんは俺に金貨の入った袋を手渡した。
ずっしりと重い、一体何枚入っているのか。
「なんですか……これ」
「出し渋った王にしっかり払わせた、第一功の金貨5000枚と、諸々だ。残りはあそこにある」
このずっしりと思い袋がたくさん積み上げられている。
「え!? そんな……貰えないです」
「気にするな、もともとお前たちに支払われる金だ。それに私はこれでも私は子爵、帝国騎士であり、帝国貴族だ。金なら腐るほどある」
「……子爵……ちょっと想像もつかないです」
「これからお前は剣以外にも色々学ばなくてはな。世界は想像以上に広いぞ」
「…………ガイヤさん。わかってましたがすごく良い人ですね」
「……ふっ。修行が始まったとき同じ言葉が言えるかな?」
「…………ちょっと怖くなってきた」
俺の頭をわしゃわしゃと撫でて、ガイヤさんは背を向ける。
「……では、また会えるのを楽しみにしている。ノア」
そういってガイヤさんは行ってしまった。
今回の作戦については、色々あったんだろうが全てガイヤさんが処理してくれたらしい。
またその辺についても聞かないとな。
ガイヤさんと話してわかったことは、俺はこの世界について知らなさすぎるということ。
それはおいおい理解していくとして……。
「……アリス」
俺は隣の病室へ行く。
そこにはアリスが窓の外を眺めていた。
あれからアリスは目を覚まし、そしてことのすべてを俺は話した。
リュウにしっかりフォローしておけと言われたしな。
「ノアにぃ……先生が三日後には退院できるって」
「そか」
俺はアリスの隣に座る。
リュウが死んだことを知ったアリスは見たことがないほど泣いた。
そして自分を責めて、私が死ねばよかったとまで言ってしまった。
でももう立ち直っている。
いや、無理やり立ち直らせているだけだ。
「大丈夫、死にたいなんて言わないから。それは……リュウにぃに悪い」
「そうだな」
俺はアリスの手を握った。
窓の外を見ているが、泣いていることはわかった。
「頑張って生きよう」
「うん。リュウにぃの分まで生きる」
その涙を見て俺も静かに泣いた。
まだ元気はでない。
それでも進まないといけない。
頑張ると約束したのだから。
そのあと、俺とアリスはファストレスのスラムへと帰ってきた。
スラムではみんなが迎えてくれた。
リュウの死を伝えることは……できなかった。
まだ小さいこいつらに、それを伝えるのはあまりに酷だったから。
だから今は別のとこで仕事をしている。いずれ帰ってくるからと伝えた。
寂しそうにしていたが、納得してくれたようだった。
「ワルガッソ」
「あ?」
俺はスラムで最年長のワルガッソだけを呼んで二人で話した。
俺とリュウがいなければ、このスラムを守ってくれるのはワルガッソだからだ。
「…………実は」
「死んだのか」
「え?」
「お前の顔みてりゃわかる。一緒に帰ってこなかった理由もな。リュウは……死んだのか」
「…………」
俺は無言で頷いた。
「…………そうか……そうか」
ワルガッソは目を閉じてただ、そうかとつぶやいた。
その眼には涙が溜まっている。
しかし上を向いてこぼさせない。
「あいつが……死ぬんだな。誰にも負けねぇ無敵のバケモンと思ってたのに」
「俺を守って死んだんだ」
「…………ならお前は生きなきゃな」
「え?」
「お前を守って死んだなら、お前は何が何でも生きなきゃな。落ち込むのは構わねぇ。時間しか解決できねぇこともある。でもな……お前は生きなきゃならねぇよ。ノア」
俺は驚いた顔でワルガッソを見る。
当たり前のことをワルガッソは言っている。
でもそれは、なぜか俺の心を動かした。そうだ、俺は生きなきゃいけない。
「うん……そうだな。うん……その通りだ」
「やっと少しは見れる顔になったな。で? ほかにも話があるんだろ?」
「…………俺とアリスは、このスラムを出ていく。ある人の元で修行することになったんだ」
「そりゃ急だな」
「縁があってな……。それで二年後……騎士になって絶対帰ってくる。だから……」
「任せろ」
俺が何か言う前にワルガッソは任せろと胸を叩く。
「もともと俺だってリーダー張ってたんだ。あんなガキどもの面倒みるぐらいわけねぇ。まぁちょっと懐事情は厳しいが……なんとかするさ」
「ふふ…………お前やっぱりいい奴だな。じゃあ……これ渡しとく。自由に使ってくれ」
「ん? やけに大荷物だと思ったらなんだ? 食料か? …………はぁ?」
俺は金貨の入った袋をすべてワルガッソに渡した。
それを見てワルガッソは声を失う。
当たり前だ。二年このスラム全員を養っても余るほどの大金なのだから。
「なんだよこれ! やばい金か?」
「大丈夫、正真正銘綺麗な金だ。リュウが……命を懸けて稼いだ金だよ。だからこれとみんなを頼む」
「そうか……おっしゃ、任せろ! あいつら全員満腹にして、死ぬほど鍛えてやるぜ! 二年後お前より強くなってかもな!」
「楽しみだな。みんなには、武者修行で二年後帰ってくるって伝えてくれ」
「別れは言わねぇのか?」
「寂しいからな」
「そうか」
俺はワルガッソとぎゅっと握手した。
そのあと、俺とアリスはファストレスへと病院のおばあさんに向かった。
そしてすべてを話した。
「そうかい……なんか言ってやろうと思ったけど、しっかり受け止めてるんだね」
「はい。しっかり受け止めて……前に進むと決めました」
「男子三日っていうけど……あの誰にでも喧嘩売りそうな野良犬が、随分といっちょ前な眼をするようになったじゃないか」
そういっておばあさんは俺の手を優しく握った。
「――頑張んな、二人とも」
「……はい、お世話になりました!!」
「なりました!!」
俺は頷き、そして金貨100枚と少しの迷惑料をこそっと店に置いていった。
これで心残りはなくなった。
そして翌日、早朝。
俺とアリスはファルムス王国を出るために、スラムをこっそりと抜け出そうとしたそのときだった。
「ノア兄ちゃん! アリスねぇちゃん!!」
「え?」
振り返ると、みんながいた。
なんでと、驚くとワルガッソがにやっと笑っている。
あいつめ、黙ってろって言ったのに。
「ノア、こいつらのことはきっちりと俺が預かる。約束だ。だからお前も約束しろ!!」
そういってワルガッソは俺にこぶしを向けた。
「絶対に騎士になって帰ってこい。途中で音を上げやがったら追い返してやる。だから絶対だ。わかったな!!」
「ワルガッソ…………」
「おら、おめぇら。我らが希望の星の出発だぞ!!」
するとみんなが、大きく息を吸い込んだかと思うと。
「「せーの……」」
スラム中に聞こえそうなほど大きな声で叫んだ。
「「頑張れ、ノア兄ちゃん!!」」
それは、みんなの心からの声援だった。
そんな言葉言ってもらえると思わなかった。
別れを言えば、止められると思った。いかないでと引き留められると思った。
自分達を捨てるのと責められると思った。
でも俺が思っているよりもみんなは、子供じゃなくて……思っているよりもずっと強くて。
その声は俺の背中を強くした。
俺は思わず背を向け、こぶしを掲げ、叫んだ。
「――任せとけ!」
みんなを見ることはできなかった。
なぜなら。
「もう……強がりなんだから」
泣いてる姿なんてみんなには見せたくなかったから。
~王都セカンダリ。
「あれが魔導飛行艇? おっきぃね。あれが飛ぶの?」
「みたいだな」
セカンダリにある魔導飛行艇のターミナルと呼ばれる場所に向かった俺とアリス。
ターミナルは、綺麗な建物であり、世界中にあるこの施設はリベルティア帝国が管理しているそうだ。
各国にあるターミナルが、リベルティア帝国と帝国周辺国家を繋ぐ航路となる。
周りでは、身なりの良い人たちが忙しなく行き来していた。
俺とアリスはじろじろと見られる。
そういえば俺とアリスは、スラムで着たままのぼろぼろの服だ。場違い感がすごい。
乗船場には、見たこともないほど巨大な船が並んでいた。
形は船っぽいが、どちらかというと魚? のような形をしている。
なんにせよ、水の上の船に屋根がついたようなそんな楕円形の形をしている。
あれが空を飛ぶとは一体どういうことなのだろうか。
「フェザーフィールド子爵領に行きたいんですけど」
アリスが忙しそうにお客さんをさばいているおそらくターミナルの職員さんに聞いてみた。
「フェザーフィールド子爵領? ……あーだめだめ。リベルティア帝国行きは、予約でいっぱいだよ」
「え?」
俺はどうしようかと頭を抱えた。
予約がいるなんて……どうすれば。
すると職員さんは俺たちの服装を見て眉をしかめる。
何かをポケットから取り出した。
「あーもしもし? 5番乗船場に、不審者二名。おそらく不法入国者です」
「はぁ?」
「いるんだよ、お前みたいに魔導飛行艇に潜り込んで帝国領へ不法入国しようとするスラムのガキ共がな!!」
そういってその職員は、アリスの手首を捕まえ無理やり引っ張られた。
「おら、こっちこい!!」
俺はその職員の手を掴んだ。
またこれだ。
また俺たちを見た目で判断し、決めつける。
「その手を放せ」
「……い、いてててて!!」
アリスを無理やり引っ張ったその手を俺は強く握った。
その騒ぎにたくさんの警備員が走ってくる。
くそ、幸先が悪い。いったん逃げるか。
その時だった。
「あぁ! よかった会えた! ノア君、アリスちゃん! こっちだよ」
俺たちの名前を見て、走ってくる少女がいた。
年は俺と同じぐらいだろうか。
ガイヤさん達が来ていた帝国軍服に似たような制服をきていて……そして。
――綺麗だった。
俺は思わずその少女に魅入られた。
まるで太陽のような笑顔と、そして。
「私、フレア! フレア・フェザーフィールド! 迎えに来たよ!」
燃える炎のような紅蓮の髪が腰まで伸びた美しい少女だった。
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