第11話 遥か遠き夢の世界ー4
◇ノア
「リュウ……リュウ!! …………リュウ!!!」
俺は心臓マッサージをしながら叫んだ。
心臓が止まる。
体が冷たくなる。
死ぬ。
死ぬな。
「バカ野郎! バカ野郎!! 死ぬな、バカ野郎!!」
「…………うるせぇ、バカ」
「うるせぇ! バカなのはどっちだよ!! バカぁぁぁ!!??」
突然目を覚ましたリュウ。
俺はひっくり返るように驚いて、しりもちをついた。
「はぁ……最悪だ。最悪な目覚め方だ」
俺は頭を抱えるリュウを抱きしめた。
暑苦しいと引き離されたが、まったくどれだけ心配したと。
「よかった……そのまま死ぬかと思った」
「…………はぁ」
なぜ俺の顔を見て溜息を吐くのか。
それも二度も、そんな最悪な夢ある?
「どんな夢だったんだ?」
「……だまれ、殺すぞ」
「聞いただけで!?」
「感動的な再会だが、少しいいか?」
「ガイヤさん……シャーディさんは?」
「…………死んだ。生き残ったのは私たち三人だけだ」
俺たちはシャーディさんを見て眉をしかめる。
死んでいる。
「今は自分が生き残ることだけ考えろ。改めてノア、リュウ。よく帰ってきた」
するとガイヤさんが俺たちに手を伸ばした。
俺とリュウはもう一度しっかりと手を握る。
「まず状況を簡単に説明する。ここは堕神の体内……いわゆる神界と呼ばれる場所だ」
「神界……あの紋章に触れたら入れるんですか?」
「そうだ。我々はファルムス王国に突然出現したこの堕神の討伐に来ていた。まぁ結果はこの通りだが」
そういってガイヤさんはぐっとこぶしを握る。
その手には銀色のタグが握られていた。
「せめてこれだけでも持って帰ってやらなくてはな」
そこには名前が書かれていた。
おそらく身分を証明するタグなのだろう。
「ここからが本題だ。我々はこのまま神界攻略を目指さねばならない。おそらく道中には神兵と呼ばれる敵がいる。人型から獣型まで様々だが、先ほどの影の騎士のようなものを想像しろ」
「あんなのが……」
「そうだ。この三人でそれを乗り越える。これを使え」
ガイヤさんは俺たちに剣を渡した。
死んだ騎士達が持っていた剣、つまり帝国製の魔剣だ。
「帝国で騎士が使う正式な魔剣だ。お前たちが持っている粗悪品とは格が違う」
「粗悪品だったんだ……」
「……いいんですか? 俺たちは帝国騎士ではないのに」
「後で返してもらうことにはなるが、まずはここを出ることが最優先だ。おそらくだが……」
その瞬間だった。
――ズン!!
まるで重力が二倍になったように重さを感じる。
空気が重い。
これは。
「……やはり進化か」
「進化?」
「詳しく話す時間はないが、早く攻略しなければ死ぬということだ。我々はもちろん、万単位の人間がな」
俺たちは顔を見合わせて立ち上がった。
もっとゆっくり説明してもらいたいし、なんなら少し休みたい。
でもガイヤさんの表情を見るに、時間がないのは伝わった。
気づけば石づくりの大部屋の奥には真っ黒な渦のような穴が開いていた。
「あそこですか?」
「なんかどこまでも深い穴って感じ……」
「あぁ。死ぬかもしれない、いや死ぬ可能性の方が高いだろう……それでも……いや、夢から帰ってきたお前たちには愚問だったな」
そういってガイヤさんは少し笑って背を向けた。
まっすぐとその暗闇のような渦を見つめる。
「いくぞ。ノア、リュウ……私たちには、あるだろう? 決して譲れぬ強き意思が」
「「はい!」」
◇朱海荒野
「うわぁぁ、やばいやばいよ!!」
「に、にげるか。ここでも正直危険だぞ」
見張りをしていた新人の騎士達は、随時状況を報告していた。
そしてついに。
「ギャァァァ!!」
腐龍は、肉をつけて成龍へと進化を遂げた。
黒い鱗を身に纏い、巨大な翼を羽ばたかせる。
地上を歩く蟻のごとき人間は、一呼吸の間に百の単位で命を落とした。
だがひとしきり暴れた後、それは起きた。
「……嘘だろ」
「ちょっと待て……おいおいおい!!」
その龍は、黒い影のような何かに包まれ始める。
まるで黒い繭になったその中で、翼を閉じて目を閉じる。
それが何を意味するのか、彼らはすぐにわかった。
蛹が羽化を待つように、今力をためて更なる進化を果たそうとしているのだと。
騎士達は、震える声で報告を上げた。
◇リベルティア帝国、帝国騎士団総司令本部。
「古龍です……総司令。報告通りであれば間違くなく古龍へと進化します。20年前と同じ……災厄のヘクサ級です」
「………………」
総司令クライゼルは、自分の最悪の予想が的中してしまったことを嘆くように目を閉じる。
「南方騎士団本部からは、どんなに早くてもあと数刻はかかると……間に合いません。それに到着しても繭の中では……手が出ません」
「……そうか」
クライゼルは立ち上がる。
「現時点を持って南方騎士団への命令は破棄し、現・帝国十剣並びに……四つ星。ペルセウス・レオレグリス、グレイ・シルバーワールド、ロイ・フェザーフィールド。三名に召喚命令」
「帝国十剣に、四つ星三名もですか!?」
「忘れたのか、スカーレットのことを。最強と言われたあの紅蓮の剣姫でも古龍と戦い命を落とした! 神殺しの英雄がいない今! 最高戦力をぶつけるしかない!!」
「…………すぐに!」
◇ノア達。
「らぁぁぁ!!」
ノアは、迫りくる神兵達を一刀両断した。
黒い影のような騎士は、まるであの部屋で戦った騎士のようだった。
そしてその強さもやはり同等だった。
だがまるで物ともしないようにノアとリュウは影の騎士を打ち倒していく。
それを見るガイヤは驚いていた。
(強い……現時点で間違いなく帝国騎士に合格するレベル。これで我流? ふっ……)
「リュウ! 最小の力で倒し次につなげろ! お前にはその技量がある!」
「はい!」
(片や、すべてにおいて高性能、非の打ち所がない。それにマナ出力が私とノアに比べても桁違い……本当に人間か? 末恐ろしいな)
「ノア! センスと反射だけに頼るな! 考えながら敵の動きを予測しろ!」
「はい!」
(片や、センスの塊。反応速度が驚異的だ。すべての動作が圧倒的に速く、自分の体のコントロールがうまい。粗削り、リュウに比べればまだまだだが……伸びしろはむしろ。ふっ。面白い奴だ)
ノアとリュウは指示を受けながらもガイヤの剣を見る。
洗練されたガイヤの剣一振りは、それだけでノアとリュウに莫大な経験値を与えた。
(どちらも天才……としか言いようがないな)
ガイヤは道中の戦いでノアとリュウを育てていた。
自分ひとりではこの先は厳しいという判断でもあり、二人の生存率をあげるためでもあった。
その思惑は成功し、我流で師もなく鍛えてきた二人は、初めての手本を前に爆発的に成長していく。
点と点が繋がっていき洗練されていく。
(そしてなにより……)
神兵がノアを襲う。
ノアが頭を下げ、ほぼ同時にリュウがその頭上を切る。
すぐさまスイッチし、逆にノアがリュウの背後の敵を突き刺す。
(二人で組んだ時その強さは跳ね上がる……これなら下手な二つ星よりも)
「このまま突っ切るぞ! ついてこい!!」
「はい!」
(この二人、必ず生きて返さなくてはな)
ガイヤはにやりと笑う。
(――いずれ英雄になる子供達だ)
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