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頭冷やさなあかんと切実に思うた。彼女いらんのか聞かれて永崎思い浮かべるんはほんまにあかんと自分に引いた。同性やからとか小林に悪いとかそういうことやなくて、単純に心許せる先輩として懐いてくれとる永崎に対してほんまにマジでめちゃくちゃありえへん発露やろこれと俺は半泣き状態やった。実際泣いた。内堀と諸々話した日は永崎と会う予定もあらへんかったからまっすぐに最短で帰宅して、おかえり〜言うてるおかんへの挨拶もそこそこに部屋入ってベッドに俯せに倒れ込んだ。泣けてきた。俺は永崎が大事や。ずっと一緒におりたい。弁当分け与えたり漫画貸したり遊びに行ったり勉強教えたり……とにかく色々したりたい。懐いてくれててほんまに嬉しい。それをめっちゃ全力で裏切っとる気分になって涙出る。
恋人自体は、めっちゃ欲しいわけちゃうけどおったら嬉しい、くらいの感覚や。なんだかんだ元気な高校一年生やしふつうの男やからそれなりに恋愛してみたい的なとこはある。男子高校生、下ネタちょいちょい話しよるしな。彼女持ち勢力のやつらとか幸せそうやし青春謳歌しとんなあて気にはなる。
せやけど自分に当てはめてへんかった。ジャンプの歴代恋愛漫画枠の作品群を思い浮かべて、青春ラブてあんな感じやろかくらいのもんやった。
だからなんちゅうか、自分の恋愛って話になってぽんと思い浮かんだんが永崎やった時点で俺の漫画コレクションは全然参考にならへんし、申し訳なさ過ぎて俺は逆に決意した。
内堀と一緒にがんばって彼女作ろ。かわええな思うた子となんとか付き合って修正はかろ。
そう決めたけどもこれって未来の彼女やなくて既に永崎を選んどるから出た結論なんよな。
言うてる間に夏休みが始まった。小学校中学校の頃よりも宿題少なくてこれはめっちゃ嬉しかった。ほんで内堀発案みんなで遊びに行こうは夏休み入ってからすぐあって、結局何人なんか知らんかったけど待ち合わせ場所に行ったら俺入れて六人やった。男三人に女三人。内堀は俺にしか見えんとこで親指立てとったから、まあ男女一組ずつに別れて歩けるでってことやろう。
内堀は個人的にええなと思てた子を呼べたらしい。名前聞いてへんかったから俺は呼ばれへんねんけども内堀は何回もなんとかちゃん言うて隣をがっちりキープしとった。もう一人の男子は谷っちゅう調子いい感じのやつで、こっちはこっちで女の子の隣歩いてた。俺と最後の一人の女の子が残った。大人しそうな子で、隣のクラスの佐々川です言うて頭下げてくれた。
佐々川さんと並んで最後尾歩いた。電車で行ける範囲のショッピングモールに行くっちゅう話で、昼前に集まっとるからまずモール内のマクドで話しながらメシ食うた。まあなんか、ふつうの高校生の夏休みやった。なんとなく男女ペアにはなっとるけどもメシ食うときはワイワイガヤガヤやっとって、そんな中でも俺はあんま口開かんとそれなりに満遍なく話聞く側に回ってた。これはもう癖やった。転勤族、いや元転勤族やから培われてもうた絶妙に人の懐に入らんようにする立ち回りや。
まあ永崎にはせえへんかったんやけど、なんてこの段階でもあいつの顔思い浮かべながらポテトをもそもそ食うとった。
「鷹島くんて、どこの中学やったん?」
マクド出てゲーセンに向かう途中で佐々川さんに聞かれた。
「高校の隣町んとこやで」
「そうなんや? なんとなく違うとこかと思ってた」
「あーそれ微妙に合っとるかも。俺親が転勤族でさ、中学入る時にこっち引っ越してきてん」
「あれ、でも関西弁やん」
「生まれは関西で園児の時は関西ぐるぐるしてたんやと。その後は関東も九州も住んでたけども、関西弁はずっと抜けんかったなあ」
「ふうん……あ、でも確かに、鷹島くんの関西弁ちょっとニュアンス違う時あるかも」
「諸々ハイブリッドやろうしな」
あはは、と佐々川さんは軽く笑た。いつの間にかゲーセンに辿り着いとって、他のメンツはクレーンゲームやろうや! て楽しそうに店の奥に突っ込んでった。後追いながらめちゃくちゃあるクレーンゲームの景品確認した。アニメ化しとる漫画、ワンピースやらNARUTOやら銀魂やらのグッズがちょいちょいあって、ポケモンやらちいかわやら見たまんまかわええキャラクターのぬいぐるみなんかも多かった。
「佐々川さんはどこの中学?」
ゲーセンのうるささに負けんようにしながら聞き返す。佐々川さんはやっぱ聞き取りにくかったみたいでちょっとこっちに体傾けながら高校のある町に住んでるて話した。見下ろすと横顔があった。ポケモンのぬいぐるみが乗っとるクレーンゲーム眺めとって、欲しいんか聞いたら首は横に振られた。
「ゲーセン、あんま好きちゃうねん」
「あっそうなん?」
「うん、大きい音得意ちゃうから」
嫌いとか無理とかやなくて得意ちゃうて言い方がわりと好感あった。なんちゅうか穏やかな雰囲気で、話し方やら立ち方やらも改めて見たら落ち着きがあって大人びとった。ええやん、と素直に思た。それから俺はちゃんと女の子に好感触持ててほんまに安心した。
ゲーセンの音がつらいんやったらと佐々川さん連れて一旦外に出た。一応内堀にメッセージ打っといた。モールの中適当にぶらついとるからゲーセン出たら連絡くれて送信して、佐々川さんと並んで歩き始めた。どうでもええ話を色々した。部活とか何やってるんか聞いてみたら、月一だけ活動がある華道部に在籍しとるらしくて、鷹島くんは? て聞き返された。帰宅部ですて正直に話した。うちの高校なんも部活に力入ってへんし所属せんでも良かった。華道部なら花とか好きなんかなて安置に考えて花屋とか一緒に見た。フラワーアレンジメント? かなんか、色んな花で明るい華やかなブーケみたいなやつが並んでて、佐々川さんはゲーセンの時の数倍嬉しそうな横顔でそれを覗き込んどった。
正直わりとええ感じやったと思う。花屋出たとこで連絡先交換したし、俺が漫画好きや言うたら本屋に一緒に行ってくれた。でかい本屋、めっちゃ良かった。読んだことない青年漫画分類のやつ読みたいと思てヤングジャンプとかの棚眺めた。キングダムに手ぇ出す時が来たか……いやゴールデンカムイか……もうちょい短めでさくっと読めるやつなんかあらへんかな……来世は他人がいい絶対おもろいやん……。そんな風にぶつくさ言いながら物色して、最終的にHELLSINGを三巻まで買うた。なんせ佐々川さんのおすすめやった。けっこう漫画読むらしくて、HELLSINGはお兄ちゃんが持ってたん読んだら面白かったっちゅう話やった。
「貸せたら良かったんやけど、お兄ちゃんあんま貸し借り好きちゃうらしくて」
「ええよええよそんなん、俺ほんま漫画だけが友達みたいな転勤族やったから蔵書まあまああんねん。増えてもぜんぜん問題あらへん」
「漫画だけが友達て……今は堀内くんとも仲良えんやろ?」
「まあなー、あいつめっちゃ付き合いやすい」
「鷹島くんて話しやすいし、中学校でも友達いっぱいいたんちゃうん?」
思考が止まってもうた。でも気付かれへんようになんとか笑い声出して、
「後輩に懐かれたりはしたけどなあ」
とか変に聞こえんように答えといた。佐々川さんは後輩かあええなあってにこにこしながら言うてくれて、この子ほんまに好感触やしええ子っぽいなと更に株上げた。
上げたけども、下手に口に出したから永崎の顔が脳内に浮かんだ。
当然それ以上「懐いてきた後輩」の話はせんかったし、このタイミングで堀内からゲーセン出たて返事きたから合流することになって会話の流れをそれとなく変えられた。内堀らはクレーンゲームの景品をいくつか持っとったしペアはそれぞれ交流深めたみたいでみんな笑顔やった。
あんまり遅なってもあかんやろてことで夕方には解散した。内堀は目当ての女の子と連絡先交換できたみたいで喜びのメッセージが後から来てた。佐々川さんとも何回かやり取りして、また遊びに行こうなて話をしておやすみスタンプでひとまず終わった。
ベッドに倒れてスマホ投げ出して目ぇ閉じた。半日一緒におった佐々川さんの顔を思い浮かべたけどもすぐに永崎に切り替わった。
明日は永崎が家に来たいて言うてた日で、こんな状態で顔合わせてええんかいなとか考えた。このええんかいなを引き摺ったまま、翌日俺は永崎迎えに行くために朝っぱらから家を出た。
待ち合わせ場所の公園にいた永崎は左の頬にグロい色の痣作って待っとった。
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