価格変動する映画館での不当評価

ちびまるフォイ

不愉快が多いと映画はつまらなくなります

「こんなところに映画館なんてできてたんだ」


たまの休日。

普段はでかけない近所を歩くと発見が多い。


久しぶりなので映画でも見ようかと中に入った。

チケットの購入で手が止まる。


「……えっ、高っか!!!!」


「お客様。いかがされました?」


「いや、この映画館のチケット高すぎませんか。

 普通の映画じゃもっと安いですよ」


「うちは映画にあわせてチケット価格決めているので」


「はい?」


「面白い映画のチケットは高く、

 つまらない映画のチケットは安いんです」


「……え、それじゃこの『海女さんVSキングコング~愛と悲しみのチキン~』が安いのは」


「つまらないからです」


「……なるほど」


最初に見るつもりだった映画はハリウッド映画のシリーズもの。

きっと面白いのだろう。チケット価格は高い。


面白い映画で高額なお金を払うか。

安いがつまらない映画を見るか。


はたまた、別の映画館に行って同じ金額で映画ガチャをするか。



「うーーん。やっぱりこのハリウッド映画にします」


「高額ですがよろしいんですか?」


「お金払って嫌な思いするよりは、

 多少高くても満足できるほうがいいなと思って」


「かしこまりました」


ハリウッド映画のチケットを買って映画を視聴。

チケットが高いだけあって面白かった。


「いかがでした?」


「チケット価格どおりでした。すごく面白かったです」


「それはよかった」


「でもどうやって映画の良し悪しを判断してるんです?

 映画の評価なんて人それぞれでしょう」


「実はうちの映画館は感情カメラを導入していて、

 お客さんの感情をモニターしているんです。

 

 満足したという感情が多い場合の映画は高額に。

 不愉快という感情が多い場合は安くしています」


「すごい……そんな時代になったんですね」


そんな映画館の裏事情も知ったことで、

すっかりこの映画館を利用するようになった。


それからしばらくして、新作の映画が公開されることを知った。

なんと自分が大好きなシリーズの映画新作だった。


映画が公開されるや、あの感情解析する映画館へと足を運んだ。


「こんにちは。この映画のチケットはいくらですか?」


価格が変動するので映画を見る前に、チケット価格を確認するのがクセになっていた。


「〇〇円です」


「……え? 意外と安い……。もしかして、この映画つまらないんですか?」


「いえ、そうじゃないです。

 まだ公開初日で、感情データがないんです。

 なので価格は高くもできないし、安くもできない」


「それじゃ普通の映画館と同じじゃないですか。

 実際に見てみないと面白いかどうかわからない」


「はい、そうですね」


チケットを買う手が止まった。


この映画館ばかり利用するようになって、見る映画は高価格帯の映画ばかり。

つまり「面白い」というお墨付きがある映画しか見ていなかった。


もしお金を払っていざ見てみたら、とんでもない駄作だったら……。


お金を払ったうえに、およそ2時間ぐらいつまらない映像を見せられる。

それはいったいどういう近代拷問だ。


「いかがしますか? チケット買いますか?」


「いえ……。やめておきます。価格が定まったら考えます」


結局、映画は見ないまま去ることにした。

面白いかどうかわからないものを見ることに恐怖を感じた。


またしばらくして映画館を訪れた。


「あ安くなってる」


まだあの気になっている映画は公開中。

チケットは公開初日と比べると安くなっていた。


「ああ、見なくてよかった。きっとつまらなかったんだ」


もしあのとき見ていたら、と思うと少し安心した。


「いらっしゃいませ。どの映画を見ますか?」


「そうですね……」


また無難に高価格帯の映画を探そうとした。

しかし、安くなっているあの映画がどうしても気になる。


人気シリーズの最新作。

よっぽど下手をしない限り面白いはず。


なのにあのチケットの値下がりよう。

いったいどれだけつまらないのか。


気になってしょうがない。


「……あの、この安い映画のチケットをください」


「よろしいんですか? 普段はもっと高い映画を見てるじゃないですか」


「まあそうなんですけど。好きなシリーズの映画ですし、前から気になってはいたんです」


「はいチケットどうぞ」


渡されたチケットを持ってシアターへ向かう。

安いチケットだけあって席はガラガラだ。


「やっぱり相当つまんないんだな……」


つまらない、と覚悟を決めると暗転し映画の上映が始まる。


1ミリも期待していなかったが、

いざ映画が上映はじまるとその面白さに引き込まれた。


「めっっっちゃ面白いじゃん!!」


自分がその映画シリーズのファンというひいき目を差し置いても、

その映画の完成度は高く、チケットの価格に見合わないほどの満足感だった。

長い上映時間の映画だったがまるで退屈しなかった。


上映が終わると、ガラガラのシアターでも拍手が響くほどみんなが大満足していた。


「最高の映画だったなぁ。なんでこんなにチケット安かったんだろう」


映画がよかっただけに、チケットが安いのは腑に落ちない。

こんなにおもしろいのに「つまらない映画」と不当に評価されている気がする。


「あの……」


「お客様、いかがされました?」


「この映画見たんですが、めっちゃ面白かったです」


「それはよかった」


「でも、チケットの価格は安かったんです。

 みんなこの映画をつまらないと思ったんですか?」


「我々に聞かれましても……。

 感情カメラの評価に応じて、機械的にチケットの価格決めてるだけです」


「それなら、絶対客は面白いって思うはずですよ。カメラ壊れてませんか」


「いいえ。カメラは壊れていません。

 たしかにこの映画では低い感情評価になっています」


「えぇ……。納得いかないなぁ……こんなに面白いのに」


「感情カメラは問題ないですよ」


「それじゃ、感情カメラがたまたま調子悪かったとか?

 なにか最近変えたこととかありますか?」


「いいえ、我々はカメラの評価システムは一切変えていません。

 カメラは客の感情を正しくモニターし、

 不愉快な気持ちが高い客が増えるほど、映画を低く評価します。

 

 この映画で変えたことといえば、たった一つです」


映画館の支配人は最後に教えてくれた。




「上映時間が長い映画なんで、上映前のマナー部分をカットしたくらいです」

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