プレフェイス~序章②~
絹墨江下流域、最古の交易用運河"青丹塞"の始点に位置する城市"平桜鎮"
名前から分かるように、かつて平たい桜が堤に沿って植えられており、帝国有数の景勝地としいて年間多くの人々が副都から運河を伝って、舟での花見に興じた。その桜は不幸にも、三十四年前の戦争にて、都市が三日三晩の略奪の際に全て焼き払われた。
その後に出来たのが、征服者にして新たな支配者"馬后人"たちの接待する遊女街が築かれた。その利用者達は黒焦げとなった桜をもじって"黒桜妓楼"と呼ぶようになった。
一部、水上に杭を打ち妓楼に面した船着き場を作って、運河より来訪する客に被征服民の女達は春を
そんな不夜城にある一人の少女がいた。時を巻き戻すこと二年前・・・
大樊帝国が滅び、馬后人の天下となったが、命からがら逃げ延びた後裔と遺臣達は樊州北西の険しい山々に籠もって最後の抵抗を続けていた。最後の皇帝の弟と179人の文官・武官達、そして数千の世帯が都から落ち延び数ヶ月の逃避行を経て、川を背にした小さい山城に辿り着いた。城兵は国が滅んだ事を知らず、当初皇帝の弟が視察に来られたと勘違いしていた。
彼らの軍務というものは、3ヶ月に一度、城内にある食糧を求め流浪者が城門前に来るので、これを射殺すのが唯一の任務であり娯楽であった。なので数千の人間が城門に現れた時の城兵の驚きようは想像に容易かっただろう。
城兵には中央から派遣——失脚した城主と、地方軍営から配置——厄介払いされた指揮官数人と、周囲の廃村寸前の集落から徴募された兵士が二百人詰めていた。
「敵襲ゥゥー!!」
見張りの兵士が訓練以来絶叫した。もう一人の兵士は錆びついた鐘を懸命に鳴らし、非常時である事を城内の者に伝えた。
壮年の防御指揮官の一人が、城主のいる部屋の戸を鋭く叩き、失礼しますとドスドスと立ち入った。城主ぐらいの地位から、部屋に女を連れこむ因習があるらしいが、この城主は一人寂しく睡眠をとっていた。というよりかは年齢的に既に枯れていたかもしれないが・・
半身を起こし、白髪が数十本生えたその頭髪を掻いて
「何だね?訓練は作物の収穫の後の筈だが?」
「城主!!」
「アア、分かった分かった五月蝿い」
手のひらで顔を拭き、身体から夢を取り除いた。部屋は微かながら鐘の音が聞こえる。
「指揮官、兵の悪戯では無いのかな?」
「違います。正真正銘敵襲で御座います。弓兵は既に城壁に配置しており城主の命令を待っております」
「行こう、案内せい」
部屋を勢いよく出、城門近くの櫓にて敵の一目見ることにした。確かにいたが、問題はその数であった。
手前に武装した兵百人が盾を持って構えており、奥に数十本の軍旗が見えた。霧がまだ晴れておらず細かくは見えないが、縦に紅白の旗が見えるので自軍の軍旗と酷似している。
「徒党化した盗賊にしては装備の状態が良好だが、敵兵にしては旗からして違う・・・」
「城主!!!ご命令を!!」
責任者特有の長考に耐えあぐねた指揮官が咆哮した。
「まだだ、もっと情報が・・・おや」
霧の中より馬の蹄音が聞こえ、一騎勇ましく前へ歩み出た。その騎兵は面頬を着けていたが、城主と同じく目元にシワが寄っていた。
「馬広!!貴殿は馬広か!!?」
面頬を取り
「いかにも!!我、北門の将也!!貴殿は王彰か!!?」
王彰はカカカカと嗤い
「じゃ無ければどうした!!?」
「儂の
そう言い、手元の騎兵槍を見せつけるように掲げた。
「参った!既に死んでたというのだな!!?ハハハ・・・ここで立ち話は何だ、城にてゆるりと話そう。門を開けい!!」
こうして二年に渡る抵抗が始まった。
風家八武人伝 @kurebayashi-mikumo
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