第2話 悪魔祓い

 像は泥炭の中から見つかった。樫の木の体が夜の闇よりも黒く染まっていたのはそのためだった。ジェーンはここダブリンにある古道具屋でそれと出会った。店主はドルイド僧が作ったものだと言っていたが、従姉は愚かにもキリスト教徒の手による偶像だと信じて疑わなかった。彼女はそれを寝室に置いた。


 まもなくジェーンは体を壊して、親類の、つまりわたしの大叔母の屋敷で静養することになった。大叔母はジェーンを一目見て、悪魔が取り憑いたのだと考えた。大叔母が人を悪魔呼ばわりするのはさして珍しいことではないのだが、このときばかりは多くの大人を巻き込んで大ごとになり、幼いわたしが知ることのないように細心の注意が払われながら、真夜中に司祭がジェーンを訪れて悪魔祓いを行った。それは連夜続けられたが、神の力が及ばなかったのか、初めからそんな力が存在しないからなのか、儀式がジェーンにとって喜ばしい結果を生むことはなかった。彼女は日に日に衰弱し、その体は生きることを諦めたように水も受け付けなくなった。わたしの記憶の中の彼女は若く、美しい女性だったが、大叔母によれば、最期の姿はまるで老婆のように干ききっていたという。


 ジェーンが死んだあと、大叔母はジェーンが遺した日記を見つけた。そしてそこに記されていた悪魔の彫像を探し回ったが、ついに見つからなかった。



 わたしがあの部屋で見たものについて大叔母に打ち明けると、彼女はこれらのことを私に話して聞かせた。

 それからのちわたしはついぞあの部屋に足を踏み入れることなくダブリンをあとにした。

 口には出さなかったが、わたしは幼い頃にやはり同じ部屋で見たもののことを思わずにはいられなかった。黙っていたのは大叔母があれを悪魔と呼ぶことが目に見えていたし、なにより、わたし自身があのときから現在に至るまで、あの得体の知れないものに狙われ続けているというおぼろげな感覚が、次第にはっきりとした形を取り始めていたからだ。あれはジェーンを選び、次にわたしを選んでいたのだ。

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パット・ハーンと無貌の女神 生地遊人 @yuphoria

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