第11話 日夏の秘密
閉店時間を過ぎて片付けをしていると、日夏が声を掛けてきた。
「藤花パイセン、今暇っすか?」
いつもの日夏と違い少し低い真面目なトーンで話しているので、少し気になるが、暇だから暇という。
「じゃあちょっとどこかで……
川で水の音でも聞きながら話したいのだろう。あえて玲奈が飛び込んだ中川ではなくてその逆にある旧江戸川なのは日夏の気遣いかな。
🪻🪻🪻
私が川の柵に寄りかかると日夏も寄りかかる。日夏の右手には、いちごミルクの缶。立ち話には缶が似合う。
「そういえばブラックじゃないんすね」
私が自販機で買った缶のカフェオレを指差して日夏が言う。
「……苦いの苦手だからね」
日夏が驚いている。そんなに驚くことかな。私そんなブラック飲んでそう?
「なんか意外でギャップ萌えっす!藤花パイセンかっこいいし、なんとなくブラックコーヒー、酒、煙草とかが似合うし、好きなんかなって思っていたんで……」
そんなイメージ持たれてるのか。私、甘いものが好きなんだけどなぁ……ケーキみたいなスイーツや果物とか。
「……全部苦手。あー、それで話って?」
ここに来た本来の目的を忘れかけていた。別に時間あるからどれだけ話していてもいいけど。
「憧れっす……」
日夏が俯きながら何かをそっと呟く。その後、日夏が顔を上げて言う。
「憧れなんっすよ、藤花パイセンみたいに妹と一緒にいられるのが……」
日夏の目先が少し潤っている。きっと日夏も過去に何かあったのだろう。
「実は……あたしには生き別れの妹がいるんすよ。両親が離婚する時に私は父の方、妹は母の方に行っちゃって……まあ小さい頃の記憶で本当にいるか分からないんだけどね」
数年間、一緒に仕事してきたが知らなかった。きっと他の人には話してないことだろう。
「……嫉妬してる?」
私は日夏に聞く。私が椿といることが日夏にとって苦になってないか。
「全然してないっすよ!藤花パイセンと椿ちゃんにはいつも良い、姉妹百合を見させてもらっているのでね!」
この時、気付いた。日夏も私と同じ、百合好きなんだということに。
「そういえば、その妹の名前は?」
名前だけでも知っておきたい。もしかしたら偶然出会うかもしれない。
「名前はね……夏に月と書いて、"夏月"。この前花屋に訪ねてきた方が、花を渡そうとしてる相手と同じ名前……だからこの話をしようと思って藤花パイセンを呼んだってことっす」
あの時、日夏が珍しくずっと沈黙してたのはそういうことか。
「……なんで私には話せるの?」
普通に疑問だった。そんな辛い過去を何故、私になんか話すのか。
「藤花パイセンにはお世話になってるからっすよ。それになんか似たような境遇ですし」
確かにそうだ。日夏と夏月さんの境遇は、私と玲奈の境遇によく似ている。
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