第12話 サインの名前
「藤花~!夏月、連れてきたよ」
振り返ると春花だった。その横には夏月。急にタメ語になったのは驚いたが、おそらく同年代なのでこっちもタメ語で良いだろう。
「……お久しぶりです。な、夏月です」
夏月にそう言われたので久しぶりと返す。
「ごめんね~藤花。夏月って歌えば、声出せるのに、喋ると人見知りでね」
春花がはにかんで笑いながら言う。あ、夏月がどこか椿に似ていると思ったら、人見知りだからか。じゃあ椿も歌わせたら喋れるかな。……いやたぶん無理だわ。
「ねぇ二人ともサインってお願いできる?」
前回貰い忘れたサインを書いてくれないか問う。
「全然OK!私達、親友でしょ?お互い、ここまで支え合ってきたんだしさ」
確かに支え合ってはきた。私は、この二人の曲に救われてきたし、この二人にめちゃくちゃ金、貢いでるし。
二人にサイン用紙を渡す。真ん中にsuffering lilyと春花が書き、その右上に夏月が略称であるサファリリと書く。
「要望多くて申し訳ないけど二人の名前も書いてくれる?」
全然良いという表情で春花が左上に名前を筆記体で書く。そして右下に夏月がゴシック体で……暇川夏月と書く。
「あ、ヤバい……本名書いちゃった」
夏月と春花を含めて全員が驚いて固まっている。日夏が夏月に近づいていく。
「……ねえ、本当に夏月なの?」
夏月をじっと見ながら日夏は言う。夏月はかなり戸惑った後に気付く。
「……もしかして日夏?」
日夏は頷く。夏月に近寄り、ぎゅっと抱き締める。
「ずっと会いたかった……」
「私も……」
私達はそっとその場から離れ、姉妹の感動の再会を二人きりで楽しませてやった。
🪻🪻🪻
それから二人が思い出とかを語り合った頃合いに私達は戻った。
「え!店内BGM、貰い夢じゃん」
春花が急に言う。そう、春花達が私に聴かせてくれた曲だ。偶然、その曲が流れていた。
「実はさ、この曲って人を助けた時に書いたんだよね……」
夏月が呟いた。もしかしてと思い私は話を詳しく聞くことにした。
🪻🪻🪻
――あれはまだ春花と出会う前。私は歌詞を書くためにイメージが浮かぶ、土手にいた。雨が降っていたので傘を差しながら。
頭に浮かんできた言葉をノートに書いていると、突然大きな水飛沫がした。その方向を見ると、女性が流れていて、苦しそうにしていた。
私はすぐにその川に入り、その女性を助けた。土手まで連れてくるのは、流石に大変だったけど、どうにか助けた。
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