第10話 花屋のきっかけ

 あの橋に向かうために、玲奈が過去に飛び込んだ川、中川を見ながら土手を歩いていた。


 そんな時、何処からか音楽が聴こえてきた。音の聴こえる方に行くと、芝生の上に少女と女性がいた。


 女性はアコギを弾いている。そして少女はそれを見ている。カップルかなと思いながらその様子を見てると声を掛けられた。


「……わ、私達どうですか?」


 そう少女に聞かれたので私は答えた。


「……んー、お似合いです」


 二人がきょとんとした表情で見つめてくる。何か不味いこと言ったかなと不安になる。すると、女性がフフッと笑う。


「あの……私達、カップルじゃないですよ。二人で音楽ユニットをやってるんです。それで路上ライブをやってたんですけど誰も来なくて。それで私達の演奏どうって聞きたくて……」


 女性にそう言われ、私が恥ずかしい勘違いをしていたことに顔が赤くなる。


「……路上ライブなのに、土手でやってるんですね」


 思ったことをうっかり言ってしまった。久しぶりに椿以外と話してるからかコミュ力が低下してる気がする。


「確かにそうですね。ちなみに路上って許可取るの大変だから私達は土手でやってるんです。まだ誰も聞いてくれたことないけど……あ!じゃあ、良ければ、お姉さん……聴いてくれます?」


 少女が少し微笑みながら言う。無邪気に笑えるその純粋な心を気に入ったので、せっかくだし聴いてみることにした。


「叶えたかったなんてその夢を諦めたら最低だ 

叶えなかったなら代わりにでも叶えてやるさ♪」


 そんなキャッチーな歌詞から始まる歌だった。その後の歌詞も良くメロディも素人の私が見ても良いものだった。


 私は気付いたら泣いていた。その歌詞の情景があまりにも玲奈がいなくなった日の出来事や私の感情に似てたからだ。 


――玲奈が叶えたかった夢を私が代わりに叶えるのもいいかもしれない。そうしたら、また彼女に会えるかも。


「聴いてくれてありがとね。今の曲のタイトルはまだないんだけど、私達が作った曲の中で一番良い曲だと思ってるの。覚えて帰ってくれると嬉しいな」


少女が私に言ってくる。忘れるわけがないから安心してほしい。


「あ!ちなみに私が作曲&歌担当の春花で、こっちが作詞&歌担当の夏月!それで私達のユニット名は、suffering lilyって言って、和訳すると、苦悩の百合っていう意味ね!」


春花さんという女性が言った。ユニット名からしてこの二人にも沢山の苦悩があったのかなと思い、気が楽になり、もう少しだけ生きようと思えた。


「あ、私は花谷藤花です」


これが私が春花さんと夏月さんと出会った日のことだ。


🪻🪻🪻


「そんなことが合ったんだね。お姉ちゃんが花屋を始めったきっかけはその歌詞ってことなんだね」


椿はいつも私の心を見透かしているかのように、分かってくれる。





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