第壱章・"椿"の誇り
第4話 クレーム対応
お姉ちゃんに薦められて始めた花屋の仕事にも少し慣れた気がする。私にとって接客は大変だけど、お客様の笑顔や幸せのために少しでも関われると思えば頑張れる。
一歩一歩に力を込めている感じの足音が聞こえてきた。さて今日はどんな客が来るのかな。
「……いらっしゃいませ」
顔を上げると、黒色のウインドブレーカーを上下に着て、ヒョウ柄のジャケットを着た若そうな男が立っていた。いかにもヤンキーって言う気がする。
「おい!お前ちょっといいか?」
うわぁ、話しかけられた。まあ接客業の上、会話は当たり前だが、こういうタイプの人間は苦手。
「なあ。これ、枯れたんだけど……」
あぁ、クレーマーだぁ。クレーム対応とか分からないんだけど。なんでお姉ちゃん、教えてくれなかったの……。
「椿!枯れたんだけど!!」
突然、名前を呼ばれて驚く。なんで名前知ってるの……と思ったが、クレーマーの持ってる枯れた花が椿の切り花だった。
「てめぇ……どうしてくれるんだ?」
圧をかけられる。怖くて何も言い返せない。
「……ご、ごめんなさい!」
とりあえず深く頭を下げて謝る。これで許してくれるかなと顔を上げると、クレーマーはさらに睨んできた。
「金払えよ……金を!」
クレーマーが枯れた椿の切り花を私に押し付けてきた。――怖い、お姉ちゃん助けて。
🪻🪻🪻
椿が花屋に慣れてくれたかなぁと思いながら、彼女の方を見てみる。何故か深く頭を下げている。クレーマーか、そう思った私は椿のもとへ行く。
「さっさと金出せや、俺様は客や!」
椿を背中の後ろに下げて守る。なんか勝手に頭に血が上っているタイプのクレーマー。こういうやつの対処法は……
「……大変申し訳ございません」
私は無愛想にそう言った。クレーマーの怒りはさらに爆発した。
「なんやその態度、お前しばいたるわ」
クレーマーが殴りかかってくる。その手をまるでボールのようにキャッチする。
「……あんたが態度、わきまえてくれ」
逃げ出すようにクレーマーが去っていく。
「ありがとうございました~。……二度と来るな……」
私は煽るように手を振る。気づいた時にはもういなくなってた。
「……椿、大丈夫?」
椿の顔を見ると、とても青ざめていた。人と関わるのが苦手な椿にクレーム対応をさせたことを深く後悔する。
「なんでクレーム対応の方法、教えてくれなかったの?」
椿に今にもこぼれ落ちそうなほどうるっとした瞳でこちらを見られる。困っているのに、その顔も愛おしいと思ってしまった。
「ごめん。椿でもクレームぐらい対応できると思って……」
椿がすぅーと息を吸う。
「私が……出来るわけないだろーー!!お姉ちゃんのバカ!」
とても大きな声で叫びながら、私の肩を揺さぶってくる。出来ればその声で接客してほしいのにと思った。
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