第3話 椿、初めての出勤

「……ということがあったんだ」


 私は過去にあったことを偽りなく、椿に教えた。彼女は頷きながら話を聞いてくれていた。途中で私が泣きそうになると撫でてくれた。さすが私の愛する妹、本当に良い子だ。


「あ!じゃあそのピアスを寝る時も外さないのは、その……玲奈って言う人から貰ったから?」


 椿が私のピアスを見て言う。私は、あの日からずっとピアスを外さずにいる。玲奈から貰った大事な物だから。


「そう。ちなみに私が花屋を始めたのも玲奈の夢を叶えたかったからって言うのが一番の理由」


 私は花屋の店長だ。と言っても、大きな店ではないけど。個人営業で店員は私を含む4人だけだ。今度、椿も入るが。営業時間も短い。


――ん?営業時間……


 私は時計の方を見る。椿も同じく時計を見た。9時50分……営業開始10分前……。


「お姉ちゃん!急がなきゃ!」


 私達は急いで花屋に向かった。今日は、椿が初めて花屋の仕事に就く日だった。


🪻🪻🪻


「お~い、店長……何遅れてんだぁ?」


 拳を握ってポキポキして怒ってる、こいつは木原朝陽きばらあさひ。金髪でツーブロックで一見ヤンキーに見える。人見知りな椿が怯えて私の後ろに隠れる。


「……朝からうるさい」


「えー、遅れたのに反省の言葉もないのかい」


「……いつも遅れるくせに」


「ん?聞こえないなぁー」


「……」


 私と朝陽はずっと言い合いをしていたが、皆に止められた。


 椿が私の横に出る。自己紹介をしたいのだろうか。私は彼女の背中を少し押す。とても震えている。


「花谷椿です。藤花の妹です……。よ、よろしくお願いします」


 震えながら私の後ろへ戻っていこうとするので軽く抑える。


「あ、藤花パイセンの妹だったんすね。似てるなぁって思ったんすよ。あ!あたし、暇川日夏ひまかわひなつっす!よろしくっす!」


 微笑みながら日夏は言う。日夏は、明るく活発なため、この花屋のムードメーカー的存在だ。


「木原朝陽。よろ~」


 椅子に座りながらそっけなく言う。態度悪すぎだわ。新人が来たのにこんな態度するか?転校生来たら喜ぶのと同じ感じに喜ぶでしょ。


「僕は鈴村蘭すずむららん。よろしくね」


 蘭くんはこの花屋で一番年下である。彼は唯一の清楚系でこの花屋の癒しだ。そんな彼が年上の椿にタメ語なんて珍しいな。もしかして年上って気付いてないのか。


「ちなみに椿、二十歳はたちだけど……」


 急に私が椿の年齢を晒したため驚いてこちらを見てくる。


「え?そうだったんですか!椿さん、年下だと思ってました。ごめんなさい……」


 本当に気付いてなかったんか。椿、若く見られて良かったね。


🪻🪻🪻


 まあ色々ありながらも自己紹介が終わり雑談をしていくうちに、皆は椿と気軽に話せるようになってきた。でも椿の方は……もうちょっと時間が必要みたいだ。


――第零章、完。

 

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