第2話 私は花屋になりたかった
――その日は、いつもと対して変わらない秋時雨の日だった。強いて言えば、玲奈の18歳の誕生日だったことぐらいだろうか。
彼女はとても気まぐれな人だった。直前までしてたことをやめたり、予定を守らなかったりした。そんな性格でいたからなのか彼女は虐められていた。
殴られても捨てられても言葉に傷つけられても、どうにか彼女は、耐えていた。いつしか私はそんな彼女に見惚れていたみたいだ。
「……玲奈に手を出さないでくれる?」
ある日、気付いたら私は玲奈を暴行から庇っていた。その日から私は彼女を守り続けた。時々、虐めに巻き込まれたりしたが自分の行動に後悔はなかった。ただ玲奈を守りたかった。
――ずっと守っていたかった。
玲奈の18歳の誕生日、その日彼女は失踪した。
とにかく私は色々な場所を探した。いつもいる場所にもいない。いや、玲奈にいつもいる場所なんてないか。彼女は気まぐれだ。だからきっと何処かに旅に行っただけだろう。私はとりあえず家に帰ることにした。
ポストに何か入っている。手紙だろうか。私はその手紙を開けた。手紙にはXX橋に来てと書かれていた。私は、急いでXX橋に向かう。気まぐれな彼女なら急に飛び込んだりするかもしれない。
――不安になる心を抑えながら私は走る。
橋の上には玲奈の姿、手すりを握りながら今にも飛び込みそうな顔で川を見つめている。
「玲奈!」
手すりに手を添えながら、こちらに振り返る。玲奈の横には紙袋がある。雨の日なのに、紙袋を選ぶなんて玲奈らしい。
「
玲奈は紙袋を持ち、私に差し出した。
「藤花に渡したいものはこれだよ。藤花の名前の由来の藤の花のピアス。あとは、彼岸花。彼岸花の花言葉、調べてみて」
私は彼岸花の花言葉を調べる。
――また会う日をお楽しみに。
「じゃあね、藤花!」
玲奈が今にも泣きそうな顔で笑って離れていく。彼女がポケットから何かを取り出した。トリカブトだった。毒を持ってることで有名な花だ。玲奈がトリカブトの葉を少し口に含む。
「最後に言うね。私は花屋になりたかった」
最後に夢を語り、玲奈は川の中へ落ちていく。さっきからうるさい雨の音を書き消すような大きな音と水飛沫がした。
"彼女が居た場所には勿忘草が揺れていた"
🪻🪻🪻
一連の出来事が理解できていない。いや理解はしているんだ。でも心がそれを認めない。私は膝から崩れ落ちる。気分とは逆に雨は、いつの間にか止んでいた。
家に帰り、私は部屋に籠る。この苦しみや悲しみが妹の椿に伝わらないように。
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