あなたの愛

あの人のためにこぼすぐらいの言葉なら、

まだ自分の心に向かって語りかける方がまし。


その方が、ずっといいよ。だって、

私はあなたの言葉ちゃんと聞くから。


あなたが本当にあの人に言いたいことを、

しっかりと聞けるから。


あなたはあの人の前では押し黙ってばかりいる。


でも、そうしながら、自分の中でつぶやく言葉を、

私はちゃんと聞いている。


静かに、息をひそめて聞いている。


あなたは言う。


「自分より、弱い人に、私の弱音なんて聞かせられない」って。


「自分自身を信じてない人に、私のホンネを聞かせられない」って。


「愛する人に、愛のない、自分勝手でわがままな冷たい言葉を投げつけられない」って。


だから、あなたは黙ってしまう。


全てわかってるけど、

わかってないようなふりをしたりする。


あなたは、あの人が好きですか?


 ……。


いまだに、はっきりとした答えも出せないまま。


ただ、流れに任せているだけ。


あなたから何かを求めることなんてあり得ない。


自分が空気みたいな存在になろうとしている。


自分に何かを決めたり、

選ぶ権利はないのだと……


誰も、あなたを愛しはしない。


そう、決めつけている。


そうかもしれないと、私も思う。


でも、あなたはバカみたいに信じてやまない。


私は、何度も訊ねる。


どうして? 


どうして、あなたの中に、

いまだにそんな強い気持ちが残っているの?


すると、あなたは小さく微笑んだ。


「だって、君がいつも一緒にいてくれるからね」


私はあなたの声をちゃんと聞いてる。


優しいあなたのその声を、一言も聞き逃さずに。


その言葉、私にくれた言葉だった。


私、あなたの為に何もしない。


あなたにとって、何の力にもならない私。


助けにもならない私。


でも、あなたは、そんな私を見つめて言った。


「君がいることが一番嬉しいんだよ」


あなたには、見えないはずのこの私。


私は、一人、嬉しくて泣いた。


あなたはずっと私に向かって話していてくれたんだ。


誰かに話しかけながら、

常に私を気遣って、

私に言葉をくれていた。


だから、心の私に通じる言葉、

嘘のない言葉で語ってくれた。


嘘を混ぜた言葉は、

私に毒だってことをあなたは知ってる。


私は嘘だとわかっていても、

あなたの言葉に熱心に耳を傾けるって知ってるから。


あなたが嘘ばかりついていると、

そのうち、嘘も真実もわからなくなって、

私が全ての言葉を信じかねないから。


あなたは私にとりわけ良質の真実を

わかりやすく聞かせようとした。


あなたの目の前にいるその人よりも。

 

ああ、わかったよ。


私は、あなたの言葉でできているんだ。


あなたが、誰かに気持ちのこもった言葉を贈ろうとするとき、

少なからず嫉妬している。


あなたがホンネでこぼしていい言葉は、

私の中だけだって思ってるから。


私はね、あなたの愛というものだよ。


ただひたすらに、

あなたの幸せを願ってやまない、

孤独な愛だった。


でも、今はもう違う。


私はひとりぼっちじゃない。


いつもあなたと共に、

あなたの心にある、

あなたの愛なんだ。

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