くだらない人生さ
本当に、思い返しても何一つない人生さ。
守られることも、守ることも、愛すことも愛されることも、何一つない最低の人生さ。
人は言うよ、俺のようにはなっちゃいけないって。
あんなふうに生きちゃいけないと。
ただ楽しい音楽を聴きながら、ろくに仕事もしないで酔っぱらったような足取りで歩く人間は、一番どうでもよかったんだ。どうでもいいから、いない方がいいと思われた。
もう昔のことのようだ。
悲しくて泣いたっけ。今では涙も出ないな。
世界の光が凝縮されて、一カ所に詰め込まれたような都市の灯りが目にしみる。涙が出るならそのせいさ。
昨日から、もう俺の体は動かない。
体中の感覚は麻痺しちまった。俺に神経があるのかさえわからない。そのせいで心が軽いよ、こんなにも。このまま目を閉じると、どこかに舞い上がっちまいそうだ。
詩人でもないのに、詩のような文章をいくつも書いては破り捨ててきた。あの言葉を残しておけば、俺にだって少しは思い出のつまった人生だったかもしれねぇな。
遠い幻さ……
この夜ってやつは、とても愛おしい。
いつだって、俺にとってはそれだけが希望の
孤独だ、悲惨だと人は俺によく言った。
それほどでもないさ。俺にそんなことを言いながら、無駄に言葉を使うあんたよりは。
最後には、みんなそう言った。揃いも揃ってそう言った。声にはしない。でも俺には聞こえて来たんだ。聞こえない声が聞こえる瞬間ほど悲しいことはなかった。
「出ていってちょうだい」
俺が疫病神に見えてくるらしい。
黙って何もしない人間なら、まして、いつだってそばにもいない人間なら。
……そんなにそばにいてほしいか?
お前のそばに?
俺のそばにはいてくれないのに?
悲しい言い訳ばかりうまくなる人間なんてなりたくないさ。
そんなやつにならなくていいなら、なんだってしてやるよ。
「さあおいで、私について来て」
明るい笑顔。
優しい微笑み。
天使の囁き。
見えるかい? 君に。
全部まやかし……それほどでもないさ。君が俺に言ったことほどには。
朝が来る。ただそれだけさ。夜はやがて、朝になる。朝は夜になり、ただそれを繰り返すだけ。それが最高にして、最大の変化。
俺の望む最後の場面は、ただその中でゆっくり終えることだけさ。
心地よい風が大地をなぞり、それを頬に感じるほどの感覚だけさ。うっすらとまばゆい光が飛び込む光景だけ。すべての記憶とともに、俺はそこで眠りにつくだけさ。
瞼の底に残った映像は、きっと俺だけの宝物だ。
全ての人に言えるよ。もし、天使がそばにいてくれさえすれば、その瞬間には忘れていた愛しい人の姿を見ることができるって。
既に出会っていたかもしれない、まだ出会っていなかったかもしれない。それはわからないけれど、きっとどんな悪人でもくすぐったくて思わず口元をほころばせるような、そんな瞬間だ。
明かりが差してくる。夜と朝の境界に。
傾いた視界に、まるで俺の元から羽ばたいたみたいに、天使が駆けて行くのが見える。空に向かって駆けていく。苔むした、古いレンガ敷の地面を蹴って、白い天使が駆けて行く。
あの輝かしい瞬間。全てが生まれ変わる日。
それで、俺が終わる日。
くだらない人生……
でも、何も恐れることはなかった。
最後にして、幸福な人生さ。
何も残さない、残るのは俺の亡骸だけ。
それも、じきに大地に還る。
この大いなる感謝のうちに……
素晴らしき希望の日よ——
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