明日に向かって笑え!

ある日、病院へ行ったら医師が言った。

「あなたの命は、あと10年ぐらいですかね~。

 ま、その10年も無事に過ごせるかどうか……。

 そりゃあなた、普通と比べても病弱でしょ?

 それに、いろいろハンディも多いようだ。

 どうです、この際、その10年を、

 半分の5年ぐらいにしてみる気はないですか?

 辛い人生我慢して10年も生きるより、

 手っ取り早く、5年で終止符を打っちゃおうというのです。

 なかなか良い考えでしょう? 

 何なら、あなた自身が自分の寿命を決めたらいい。

 ただし、どうがんばろうと10年以内だがね」


「……」


まさか、こんな台詞をしゃーしゃーと吐く医師はいない。

でも、まあ、そんなところか、ぼくの人生って……。


自分の寿命を自分で決めてみるか……

そう悪くないかもしれない。

前を見てもお先真っ暗。

ぼく自身も世の中も……

見通しのきかないこのご時世、

自分の時間を自分で決めるなんて素敵かも。

先生、あなたの意見は参考になります。


残りの時間で何をしようか考えた。

あまり好きじゃないけど、

ネット上に自分専用のウェブサイト等こしらえて、

少し冷静に考えてみよう。

ぼくには何が必要だろう?

たいていの事は経験済みだ。

欲しい物は全て揃った。

そしてゴミもたくさん増えた。

もう何もいらないぐらいだ。

残りの時間を生きていけるだけの、

多少のお金があればそれでいいや。

それと愛だな、愛。

この際だ、

愛について少しは真剣に考えてみるのもいい。


♪ 愛、あい、

  哀、アイ、

   おさ〜るさぁ~んだよ~


 …………。


ああ、それとまだある。

それはとっても大切だ。

それがなきゃ、一日だって生きてたくない。

ぼくに必要不可欠なもの。

それは「歌」と「笑い」と「大好きなアレ」

大好きなアレって何さって?

そんなの簡単に教えられない。

それを話しだすと、とっても時間がかかるんだ。

それでもいいというのなら、

一生分の時間を使って話してやるよ。

ぼくの一生分、君のよりうんと短いらしいけど。


本当は、明日に向かってなんて笑えない……

楽しい事なんてありゃしない……


でも、本当に?


本当にそうだろうか?


違うかもよ。


本当は違うかも。


『明日に向かって撃て!』という映画を知ってるかい?

追い詰められたブッチとサンダンス、

彼らが最後にどうしたか知ってるかい?

これで一巻の終わりだと、泣きっ面見せてたかい?

二人が最後に交わしたやりとりは、最高にイカす!


「イカす!」なんて言葉、

上司の真似して使ってみたけど、

ぼくの頭に浮かぶのは、

香ばしい匂いの記憶とイカの姿焼き。

ぼくは思わず吹き出した。

こんな気分の時にでも、

あの上司とうまかったイカの姿焼きを思い出すなんて。


よし、決めた!

もう一度『明日に向かって撃て!』の映画を観よう。

イカの姿焼きとビールを片手に。

その日の帰り道、思わず綻ぶ口もとを感じた。


どんなに追い込まれてても、笑えるんだな。

明日に希望がないとわかっていても、

楽しくてしょうがないこともある。

だから、笑えるって素晴らしい!

笑えるって幸せなことだと思う。


嗚呼、明日が笑える日でありますように!

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