第30話 お父さんの夕焼けこやけ

今日も、父の面会行ってきました。

おやつを食べて、姉と散歩に出て、一時間、歩きまわります。

父は、最近、思い出し笑いをするようになりました。なにを笑ってるのかわかりません。

ただ、車イスを押して、前へすすんでいると、ふふふふふ、と笑うんです。最初のころは、ん?お父さん、なに笑ってんだ?

となってましたが、慣れてくると、それも、しあわせな証拠。

まあ、良いではありませんか。

でも、今日は、少し、ご機嫌斜めのようです。眉間にしわを寄せて、口をへの字にさせ

「お父さん!今日は、思い出し笑いせーへんのー?」

姉と言ってました。

ぼくたちの住んでいる京都は、とにかく、お寺が多い。細い道を三分も歩けば、お寺とすれ違います。

小さい頃から、京都に住んでいるぼくらは、これが当たり前なんですね。



母の実家の寺を通りかかりました!姉と、少し遠回りをしよう!と回り道をします。小さいころ、ここらへんで、よく、いとこと遊んでました。



あれ?ここ。お墓違ごたっけ。小さいころ、お墓だった場所が、ガレージになってます。



時が流れると、景色も変わるんですねー。



姉と父とぼくの回り道。予定より、三十分多めの散歩になりそうです。だんだん、疲れてきました。



空は、夕焼け。



そこに、カラスが山へ帰っていけば、まるで、歌の歌詞です。



姉が、



夕焼けこやけで、日が暮れて~


と、歌い出しました。



や~まのお寺の鐘が鳴る~


父が歌います。



お~手手つないで、みな帰ろ~


カラスと一緒に帰りましょ~



父と、姉が交互に歌いました。

父は、ときどき、ことばを発しますが、歌となると、はっきり、ことばを発してくれます。



父がもう、ずいぶん、ことばを話さなくなったので、ことばを発すると、なんだか、不思議な気分にぼくらはなるのです。



父の夕焼けこやけで、なんだか、その日の疲れがなくなったようでした。



今日は、仕事でしたが、明日は、休みです。まだ、最初なので、仕事を週三回にしてもらってるんです。



ああ。この気楽な生活がずっと、続けばなあ.......そんなことを考えながら、ぼくらは、父の施設に戻っていきました。

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