第28話 秋の散歩、ことし

去年の父の施設は、まだ、コロナが蔓延していて、最悪の状態でした。

コロナで、父は、隔離され、ご飯を食べてましたが、どんどん、痩せていきました。

家族も、面会禁止で、父はだんだんと、ひとに、こころを開かないようになっていました。そんななか、やっと、コロナが五類に下がるということで、十五分だけ、散歩が許されるようになりました。



どうしよう、お父さん。

こんなにやせ衰えて。姉と話していました。できる限りのことは!やってあげよう!とのことで、秋に毎日、十五分だけ、散歩に連れ出しました。そのうち、三十分、散歩が許されるようになったんです。

毎日、毎日、散歩に出かけ、父は、ようやく、こころを開いていってくれるようになりました!


あれから、もう、朝の九時から、夕方の五時まで、面会がOKということになり、ぼくらは、いろんなところに父を散歩に連れ出しました。

北野天満宮、鴨川、昔の林家の家のなか、喫茶店。



でも、今年の夏は、違いました。暑さが半端じゃなかったんです。

外に出れなくなりました。



どうしたことか。

父が謎の大声を上げるようになったんです。家族で心配しました。

なぜ、こんなに声をあげるのか。なにか、心配なことでもあるのか。

職員さんも、わかりません、となっていました。

哀しそうな顔をして、大声をあげます。どうしよう。

みんな困りはてました。



孫が面会に行きました。

父は、最初、誰だか気付いていませんでしたが、だんだん気付きはじめ、「恵ちゃん(仮名)」と、呼びました。

あの失語症で、ぼくの名前も呼べない父が、恵ちゃん、と言ったんです。

笑わなくなっていた父が、ようやく、いい顔で、笑いました。スマホにパシャッ!



父が、声をあげるのが、ようやく落ち着いてきました。



今日、施設に行くと、まったく、声を上げていませんでした。職員さんに聞きました。今日は、こんな感じですか?



昨日の午前中以降は、上げていたんですが、今日は、まったく声をあげていません。


いま、京都では、コロナ指数が、5.47くらいになってます。

敷地内でしか、散歩は許されません。

それでもいいや!

外に出てみました!

九月に入りました。

見違えるほどの、気候の良さ!

父も、声をあげていません。

敷地内、一周の散歩でしたが

「良かったな!お父さん!また、秋の散歩!出れそうやな!」

車イスの父の肩をぽんぽん!と二回たたき、ぼくらは、秋に近づこうとしている散歩を楽しみました!

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