第15話 手のぬくもり
父の面会に行って、ときどき、父の手を握ることがある。
忘れないでおこう。
これが、お父さんの手の温度なんだ、とそのたびに、こころに刻み付ける。
亡くなった、母の手の温度も忘れてやしない。なんとなく、感覚で思い出せる。母は、倒れてから、体質が変わって手がいつも、湿っていた。
あの、いつも汗でベトベトだった、手を握るとぼくまで、汗でにちゃにちゃになって、嫌だった手の温度をいまでも、思い出せる。
母の手は、いつも、ベトベトだったから、手を握るのが、そのときは、いつも嫌だったが、「手を握って」と母から言ってこられると、仕方なかった。
汗でギトギトの手をいつも、握っていた。だから、いまでも、印象深く、母の手の温度を覚えている。
その記憶は、ぼくの宝ものでもあるし、もう、二度と触れられない、手のぬくもりだ。小さい頃から、よく、母に手を握られて散歩していた。
母の手のぬくもりは、その頃から、よく覚えている。
父の手のぬくもりも、覚えておこうと思う。父とは、あまり、小さい頃、手を繋いだ記憶がない。
きっと、手をたくさん、繋いでいたんだろうが、これは、男親のつらさだ。ぼくは、ぜんぜん、小さい頃、覚えていないのだ。
だから、車イスに乗った、父の手にときどき触れるとき、「この手の温度を忘れるな!」と自分に言い聞かせる。
だから、いまのところ、父の手のぬくもりも、思い出せる。
これが、のちのちの、ぼくの宝ものとなり、父や母を思い出すとき、くっついて離れない記憶となると思う。
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