第8話 不採用

「残念ながら、今回は不採用となりました」

「あ~、そうですか。ほんとに、残念です」

「では」

あっけないもんだ。不採用の電話など。え?それだけ?という、疑問を抱かせるまでもない。要件を伝えるだけ。

いかにも、こちらの残念そうな態度を示しても、それはそれ、とかたづけられるだけ。もう、これで、五社目だろうか。そろそろ、エネルギーも、ダウンしてくる。次、駄目だったら、こんどこそ、燃え尽きそう。

ということで、少し、就活は、休憩することにした。  モヤモヤは残るが、一旦、休むと決めたら、いままで、見えなかったものが見えてくるよう。ご先祖さまの墓参りにいきたくなった。


もう、梅雨入りしてしまったが、今日の天気は、曇り。

低気圧で、気分はすぐれないが、太陽が照りつける、真夏よりはましなのかも。

徒歩で、ご先祖さまの眠る墓までいきたくなる。


墓が自宅から近いのは、めぐまれたものだ。ひまさえあれば、ちょっと歩くと寺までたどり着く。

ただ、今年のゴールデンウィークは、まだ、生きている父のほうが心配で、お墓には顔を出してない。

忘れてた、というほうが近いだろう。それまでは、就活やらで忙しかったので、行く余裕すらなかった。


墓参り。

まあ、ゴールデンウィークまでは、いつもの調子で、ちょくちょく、顔を出してたので、そうそう、不信心ではあるまい。


 夕方五時ごろ、お墓まで行くことにした。


五時ごろ。夏は、近くまできている。だから、ずいぶんと日が長くなっている。でも、さすがにこの時間は、お墓にだれもいない。


お上人さんの姿ですらなかった。ぼくは、そろ~りと、寺の門をくぐり、バケツとシャクの置いてあるほうまで、向かう。それにしても、この低気圧。

むしむししてたまらない。

いっぺんにポロシャツも、汗びっしょりになる。墓へむかった。

林家のほう。

寂しいなあ。

曇り空で辺りは、肩を落としているようだ。ご先祖さまの墓の前まで行った。花がもう、なくなっている。

だれか、おじさんか、おばさんが片付けたのだろうか。シャクから、水をかけ、

「面接、不採用でした。ご先祖さま。ぼくが死んだら、ぼくには子どもがいませんから、もうだれも、お参りに来なくなるかも知れませんね」

などと、相談してみる。


神さまは、願いを叶えるために存在はしていないと、わきまえている。小さいころは、その知識がなく、いろいろ、お願いごとをしていたが、大人になってからは、報告だけするようにしている。

次、若くして亡くなった、おじさんの墓へ。

「おじさん。不採用でしたわ。なんとかなりませんかね?」

とだけ告げて、帰ることにした。


なんのことはない。

これが、ぼくの墓参りのスタイルである。お経を唱えるわけでもない。

お花を、お供えするわけでもない。いつも、報告だけして、帰る。


帰りに、ケーキを買おうと、ケーキ屋さんに入ると、新しいバイトの女の子がいた。やっと、ここも、かわいいバイトの子が入ったな!と、妙な納得をして、ショートケーキだけ買う。

なんかしゃべることはないかと、暑いですね!もう、むしむし、してますね!と話しかける。

そうですね!雨が降ってないだけ今日は、ましですねえ!と、当たり障りのない会話をして、五百二十円を財布から出し、あち~なあ、とケーキ屋を出たあと、そうつぶやきながら、帰ってきた。

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