第5話 ましてや、この雪の降るなか
いつものように、バスに乗ろうとすると、雪のなか、おばあさんが震える声でたずねてきた。
「『四条大宮』の駅に行くには、どうすればいいですか?」
え?と思った。ここから、離れ過ぎている。バスにでも乗らないとだめだ。しんしん、しんしん、雪は降っている。ちょうど、良かった。『四条大宮』の駅なら、ぼくと同じバスだ。
でも、このひとの、この様子。バスに乗ったところで、たどり着けるだろうか。ぼくは、途中の駅で降りる。と、そんなことを考えてても仕方がない。
とにかく、このひとのしなければいけないことは、バスに乗って、『四条大宮』の駅で降りることだ。
「バス停まで、一緒にいきましょう。『四条大宮』の駅は、ここからじゃ、バスに乗らないと無理です」
『四条大宮』の駅へ行って、なにをする気だろうか。そこから、電車にでも乗り換えて、帰るつもりだろうか。とにかく、このひとのしたいことは、『四条大宮』の駅に行くことなんだな。
そう思って、一緒にバス停まで行くと
「バスは何番に乗ればいいんですか?」
やはり。そんなこともわからない。
「ぼくと同じバスに乗りましょう。運転手さんに言っておいたほうが良さそうですね」
あ、来ました。と言って、ぼくとそのおばあさんは、バス乗ろうとした。先に乗ってもらおうとすると、さしてた傘をなかなか、すぼめてくれない。
この寒さ。
バスの乗り込み口は空いたまま。
乗っているひと、寒いだろうな。なんて考えていると、停留所の後ろのひとが、「すぼめられないのかな?」と言って、一緒におばあさんの傘をすぼめてくれた。
ようやく、バスに乗り込み
「運転手さんのところまで、行きましょう」
と言って、そのおばあさんを連れていった。
「すみません。このかた、『四条大宮』で降りたいそうです」
と運転手さんに告げると
「ありがとうございます」
と、若い運転手さんは礼を言って、おばあさんに「座っといてください」と指示をだした。
途中のぼくの降りる駅まできて、ぼくが降りると、そのおばあさんまでやってきて、「『四条大宮』でしょ?」と言って、降りようとする。
「ここは、『四条大宮』じゃないです。着いたら、教えます」と、運転手さんは、そのおばあさんが降りることをとめて、ぼくだけバスを降りて、そのまま自分の行く先へ歩いて行った。
大丈夫だったんだろうか、あのおばあさん。
たとえ、『四条大宮』の駅に着いて、うまく降りれたとしても、そこからどうするつもりなんだろう?
ましてや、この雪の降るなか。うまいこと、バスのなかは、ひとが少なくて助かったけど、満員バスなら、どうしてたつもりなんだろう。
まさか、ぼくまで『四条大宮』の駅までついてったら、それは人が好すぎるよね。
そう思って、あとは、おばあさんにまかせておいた。降る雪も冷たかったが、ぼくも、冷たかっただろうか?
雪は、相変わらず、しんしんと降っていた。
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