第3話 雨のドライブ

雨の降ってる夜なんて、久しぶりじゃないだろうか。兄にドライブへ連れてってもらった。車は、どしゃ降りのなか、カーブを曲がっていく。

「帰ったら、どーしょ。また、一人や」「読書でもしとけや」




雨が少しやんだ。

どうやら、ドライブに出るタイミングが悪かったようだ。わざわざ、どしゃ降りのタイミングを選んだよう。

「お兄ちゃん、ええな。奥さん、いるし」「ええことないぞ。おまえ。奥さんなんて、だんだん、こわなるぞ」



わかるけど、いまのぼくに奥さんというものが、欲しくなくなったら、欲しいものが、まったくなくなってしまう。



兄は、子どもがいない。

でも、そのことについて、たずねたことがない。たずねるのが、こわい気もする。

たずねようともしない。

「もう、ここ曲がったら、帰るぞ。おれ、腹減ってんねん」

「わかった」



サラリーマンの兄。

会社帰りに、ちょっくら、ドライブでも連れてったろか?と言ってきた。


ちょうど、ぼくは、扇風機に当たって、ぽーっとしていたので、待ってました、とばかり車に乗り込んだ。

でも、車が家に着いた瞬間、雨が降りだした。

車のBluetoothから、久保田利伸が聞こえる。

「お兄ちゃん、聴く音楽、古いな」

「ちゃうねん。スマホがつぶれてんねん」

兄のスマホが、どうなってるのか知らなかった。

でも、兄は、ぼくが横に乗ると、好んで古い曲ばかり鳴らす。

雨がやんだ。ぼくの家に着こうとしている。

「お兄ちゃん。仕事がなかなか見つからへんねん」

「ゆっくり、探したらええやんけ。着いたぞ」



ほんの、数分のドライブだった。家に着くと、雨は小降りになっていた。いまから、なにをするというわけでもない。ただ、これからのことだけを考えて、扇風機に当たって、ぽけーっとするだけだ。

「まあ、焦んなや」

車の降り際、兄が言ったので、うん!とだけ答える。




家の鍵は開いていた。閉めてくるのを忘れたらしい。明日、また、仕事を探す。そろそろ、ねる時間かもしれない。家に帰ると、風呂にお湯がたまった匂いがしていた。

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