第26話(10/21 14:12)
わたしは変わり切れたとは言えない。全くの別人になれたとは言えない。今だって、大勢の前に立つと足が震える。
現に今だって、大勢の人々の顔を見ながら足ががくがくふるえている。台に隠れているから生徒たちには見えないはずだけれど、後ろに立っている先生には良く見えているだろう。みっともないとさえ思われているかもしれない。
でも、この緊張が。
絶え間なくわたしの心をくすぐるじゃないか。
こうやって前に立って足を震わせているのも、どきどき高く鳴り響く心臓を力づくで抑え込もうと息を吸いまくるのも、どちらも何だかいいじゃないか。
興奮するじゃないか。
こんな恐ろしい緊張の中、まるで緊張をしていないかのように振る舞って見せるだなんてかっこいいだろう? わたしはそういう緊張が好きになってしまったんだ。
なかなか中毒になるものだよ、これは。
先生に感謝をされるような行為を重ねて、彼らの信頼を勝ち取って、なおかつ重要度の高い役目に着く。彼らはわたしの普段の成果を知っているから、わたしに期待する。
その期待に応えられるか応えられないか。百パーセントを自分にベットする、勝率をわたし自身が決まるギャンブル。
要するにわたしはそんな賭け事の中毒になってしまったんだ。
そのことについては先輩——
あの人はわたしと違って、自分の勝率を自分の力と性質によってのみ上げてみせる。もっと言うなら、その人徳と人柄で全てのことを可能にしてしまう。
対してわたしには人徳も人柄も存在しない。強いて言えばやや人間味がある、くらいだろうか。
だから私は、努力ですべてを底上げする。普段の自分の努力を糧にして、わたしの勝率を上げてみせる。
それがわたしの戦い方。
わたしの武器。
扉の向こうでわたしが勝ち取ったもの。
壇上で、真っ直ぐに前を見上げて。わたしが今まで丁寧に重ねてきた努力の上に仁王立ちをして。わたしは口を開く。
「皆さん、こんにちは——。わたしは
やって見るのもいいじゃない?
生徒の頂点なんて、憧れるでしょう。
緊張するけれど、この緊張がたまらなく嬉しいんだ。
震える声を震わせずにしゃべりかけるのが狂おしくわたしを
自分の手に入れた武器で、自分が積み重ねてきた努力で勝負を挑むというのはこんなにも嬉しいものなのか。こんなにも誇らしいものなのか。
わたしは今、わたしが誇らしい。自分の力を他人に見せつけられるほどにまで成長した、わたしが誇らしい。
いつか再びあの人に出会ったのなら、わたしの成長っぷりを自慢してやろう。どこまでも誇らしく、胸を張ろう。
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