第22話(?/?18:48)

 じゃあ、なんてカッコつけてきたんだけど、やや迷子になっている。皇宮の建物の中、という閉鎖された空間にいるのも影響して、ここがどこだかさっぱりだ。

 取り敢えず外の空気を吸おう、と思ってテラスのドアに手をかける。


「あれ、サヨ?」


 先客がいた。

 夜の風を浴びながらサヨが立っている。


「私、人を待っているの」

「……誰?」

「ユーリさん」

「あ、わたしさっき会ったよ」

「そっか」


 二人には何か関係があるのだろうか。

 聞いてみようと口を開くと、


「私、あの人のこと好きだったんだ」


 右側の髪の毛を右手の人さし指に巻き付けながらサヨが言う。


「え」

「うん。一目惚れでさ。振られちゃったんだけどね。今日、会えたらけじめをつけようって。『よかったら来てください』って手紙を渡したの」


 だから、あの人は庭にいたのか。護衛っていうのは四六時中そばに居るものだろうから、おかしいなと思ったんだ。


「来てくれるといいけどね。私、かなりひどいことしちゃったから」


 嫌われてるだろうな、とサヨは空を見上げる。


「でもさ、いつまでも好きでいるわけにいかないよね」


 真意がわからなくて後ろ姿を見つめた。


「叶わない恋って素敵じゃない? 

「永遠に恋をしていられるのって素敵じゃない? 

「愛してもらえないけれど恋をしている私って素敵じゃない?」


 わたしにはその理屈はわからなかった。——でも、


「でもさ、いつまでもそうはいられないじゃない。 私は、前に進まなければいけないし、変わらなきゃいけないんだ」


 ぐっ、と前を見つめるサヨは、奇麗だった。


「だから、私は今日、前を向く。あの人が来ても来なくても、もう諦める。そう決めた」


 あ。

 わたし、今、惨めだ。

 ここ最近一緒に居た、身近に感じていた彼女は前を向こうとしているのに。

 わたしはまだ、くすぶったままでいる。

 この先どうしたらいいんだかわからないまま、立ち止まっている。


「偉いんだね。サヨは、きちんと未来を見てる。わたしなんかとは違うや」

「一年越しだよ。全然偉くなんかない」


 でも、わたしよりは遥かにましだ。

 わたしは、あれだけ色々言われても尚、踏ん切りが付かないでいるのだから。


「じゃあね。わたしは行くね」


 サヨに別れを告げて、その場所を後にする。


 早く皇女様のところに行こう。


 皇女様の部屋のドアには、プレートがかかっていた。


『Lisa』


 よく英語の例文で出てくる名前。

 わたしでも簡単に読める名前。


「失礼します」


 ノックをして、ノブに手をかける。


「どうぞ」


 返ってきたのは、さっき取調室で聞いたのと同じ声だった。

 これで、終わりにしよう。

 この人に話を聞いたら、わたしも前を向こう。

 わたしはそう決めた。

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