第18話(?/?17:08)
なんだか、さっきから突き放されてばかりだ。ミレーユさんには、優しくしてくれる家族のいるわたしを
凹むなぁ。
「あれ? なんだか人が多いね」
驚いて、ばっと勢いよく振り向く。
弾みで後ろの棚に肘がしたたかにぶつかった。
「いったッ……」
「うわーっ」
直前に入って来た誰かの人影が、わたしのぶつかった棚に手を添えた。
「これ、だいぶ貴重な機材なんだよ!?」
わたしよりも棚に載っている色々の心配でした。
「ごめんなさい」
謝りつつ人物を観察する。
白よりは黒に近い範囲のねずみ色の頭髪。焦って機材の無事を確認する様子からはよくわからないが、体格的に男の子だと思う。
「ん? あれっ? 日本人?」
わたしの言葉を聞いて振り向いた。
紺碧の瞳。形の良い眉。リップでも塗っているのかという唇。
有り体に言って、美少年だった。
「んーごめんごめん。でも君より僕にとってはこいつらのほうが大事だしさー」
棚の上に乗っていたのは、三台のノートパソコンと、それと対になりそうなマウス。それから立てかけられたタブレット。棚には三つ段があって、真ん中の段には多分誰かの私物がおいてある。見た目っていうか、色味からして女の子のものっぽいから、彼のものではなさそう。
……ん? さっきわたしめっちゃひどいこと言われたんじゃないか?
「タクト先輩! なんですかその態度」
「クリスちゃん、攻撃的だなあ。怒ってるの?」
すばやく棚の上のタブレットを一台手に取る、タクトさん。
「表情と、心拍数、語調から判断して、全理性に含まれる怒気の割合は八十%。それに反して僕に呆れる度合いは二十%、かな?」
なんか計算したみたい。
「私、先輩のそういうところ嫌いです」
「あら。嫌われちゃったみたい」
くく、と笑う。悔しいくらいに美少年。
「サエさん。こちら、当学校のアイドル。タクト先輩です」
学校のアイドルって実在するんだ……。
「ん。よろしく。君が、リサが言ってた『地球から来た娘』?」
「多分、そうだと思います」
「
「そうですが……何故?」
「ちょっと、ね」
「タクト先輩、画面と会話していないでサエさんと会話してください」
「えー? 皇国の極秘データベースへの侵入が済んだとこなのに?」
「とこなのに、です!」
ああ煩わしいなあ、と見るからに面倒くさそうに頭を掻きむしり、タブレットケースを閉じてわたしに向き直るタクトさん。多分わたしより美人。
「どーも。
「タクト先輩! もう少し営業してくださいよ」
「ええ……」
見るからにパソコン系男子だ。美貌がもったいない。
「んーーー」
タブレットをけっこう本格的にシャットダウンしている手の動きをしている。唸りながらそういうことをやっているとけっこう怖い。
「改めまして」
頭を下げられたので、何となく会釈を返してみる。
「西浦択人です。七月生まれの十五才。皇女のリサとは同い年で、そこのショウとも同学年。よろしくねっ」
……。
学校のアイドル……確かに……。
この笑顔見せつけられたら恋に落ちるか推しにするしかないな。
営業用と分かっているからこそ落ちないものの、最初からこれだったらやばいぞ。心臓がクライシスだ。
「クリスちゃん、こんな感じ? で、僕が分析したところ、これは部隊の全員から何か激励の言葉をもらって回っている最中、ってことでいいのかな」
ああ。分析屋さんなのか。
「そうです」
やや呆れ気味のクリスさん。まあ、これを日常的に見ていれば、そうだろうなあ。
「じゃ、僕からも何か言わなきゃ、と」
「お願いします」
「……ここなら、甘えられるよ」
右の耳たぶをいじりながら(そんなところも絵になる)、極めてかったるそうに、
わたしは言葉で甘やかされた。
だって、美少年に甘えていいって言われるなんて、この上ない至福だもの。
「……いえ。わたし、帰ろうと思っています」
「ああ、そうなの? 僕の学校に入ってくれれば、面白かったのに」
恋に落ちちゃいますよ!?
「『元日本人が、魔法学校に入ったらどうなるのか』、っていうデータが取れたのに」
仕事人間なところも魅力に感じてきました。
「ごめんなさい」
「別にいいよ。『ここの居心地がわかっていながら、あえて日本に帰る人間がいる』っていうデータが取れたから、満足しとく。クリスちゃん、もう行くの?」
「ええ。タクト先輩に誰がどこに行くかのデータをもらおうと思いまして」
「せこいな。でも、あげるよ。生産番号14862128のタブレット。ホーム画面下から二番目、右から三個目のアプリに入ってるから」
「ありがとうございます」
「うん。じゃあ、冴さんも、クリスちゃんも。またね☆」
ウィンク止めて……心臓が……。
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