第17話(?/?17:04)

「あら。さっき振りですね」


 図書館の奥の席に座っていたのは、先程案内をしてくださった美麗な方だった。


「どうしたのですか? クリス」

「あれ? ミレーユ、もうサエと会ったの?」

「隊長から案内を命じられまして」

「なーんだ。拍子抜けですぅ」


 机を横断してクリスさんが手を伸ばす。


「実はですね、『部隊』のみんなとサエさんを会わせようと思っていて!」

「全員…ですか?」

「はい! さっきキリ先輩には会いました!」

「わたくしは丁度そのキリコと話をしていたのだけれど。あの人、戻っていらっしゃらないのかしら」

「すぐ来ると思いますよー。それより、誰かの居場所知りませんか?」


 うーん、とミレーユさんは考え込む。


「ショウなら生徒会室だと思います。後は判りかねます」

「そうですかぁ。ありがとうございます」

「あぁ、待って下さい。これって、わたくしも何か伝えたほうがよろしいんですか?」

「何か、あるなら」


 初めて、ミレーユさんと目が合った。不思議に引き込まれそうな瞳。


「帰って、喜ぶ人がいますか」


 帰れ、と言われた気がした。帰りを待つ人が居てくれるのなら、あなたは帰るべきだ、と言われたように思った。


「生徒会室ってどこにあるんです?」


 サヨが久しぶりに喋った。わたしと目が合うと、ミレーユさんがどうも苦手だと舌を出す。


「こっちから学園棟に移らなきゃいけないんですよね。まあ時間はありますし、行きますか」


 渡り廊下は暑いですよ、とクリスさんが忠告した。



 生徒会室は、うちの中学(うちは紅都こうと立高校付属中学校という。最近完全中高一貫化がされた。ちなみにわたしは中学二年生)のものと同じような感じだった。

 真ん中に円形のテーブルがあって、生徒会の人数分パイプ椅子がある。横のラックには代々伝わってきた資料、みたいなものがたくさん並んでいる。


「私初めて、こういうところ。村の学校には生徒会ないから……」


 ミナが物珍しそうにあちこちを見る。

 生徒会室が息苦しくて嫌いだ、というカルさんと、大勢で入ったら狭いでしょう、というサヨを置いて、ここにはわたし、クリスさん、ミナの三人で来ている。それで、クリスさんはここにいるはずという一人を探しに行っているところだ。


「失礼しました。自販機でジュースを買っていまして」


 後ろから声がして振り向くと、目の前に制服のネクタイがあった。慌てて上を向く。


「皇都立校ディストレスペンサーの中等部生徒会長を務めております、ショウ・タリンと申します。日本での名前は、高木たかぎ正馬しょうま


 ブラックブルーの髪に、わたしと同じ茶色い黒の瞳。見間違いでなければ、純粋な日本人に見えた。しかも、


「高木正馬って、市立霧園いちりつきりぞのの神童って呼ばれてた、あの…」


 市立霧園の神童。学校外で親に受けさせられた模試で、小学四年生にして全学年総合順位一位を獲り、一躍有名になった人物。しかし、中学二年生になった段階で、蓋口ふたくちへの親の転勤に伴い引っ越したと聞いているけれど。


「俺がその高木です。ただ、その噂についてはまるで嘘ですが。俺がもともと暮らしていた家の家人はそのまま暮らしていますよ。俺の存在を全て忘れた状態で、ですが」


 それにもう、神童も辞めました、と苦笑い顔。神童を辞めるってなんだ、と思う。


「あなたは?」

「わたしは、地球から来ました。霧園地区の者です。名前は凊冬すずふゆさえと言います」

「ああ、霧園の…道理で俺を知っていたわけです。それなら、皇女とも同じ地域出身となるんですね」

「え? 皇女様も?」

「もともと彼女は俺の同級生ですから。――それで? クリスが言うには、せっかくだから『部隊』の全員に会って一言をもらっている、とのことですが、その認識で間違いないですか?」

「…はい」

「じゃあ、俺から言いたいことは一つだけです」


 思わず、背筋を伸ばす。いくら私が胸を張ったって、ショウさんの目線には届かないけれど、意欲を示したつもりになれた。


「諦めるのはいつでもできますけど、頑張った後に疲れて辞めるのは努力家の特権なんです。――こんな事、もう知っているかもしれませんが」

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