第15話(?/?16:51)

 わたしが緊張してろくに喋れないでいるうちに、面会は終わってしまった。

 皇宮内は好きに歩き回って良いと言われ、取調室から外に出てそぞろ歩く。如何せん広すぎて途中で迷子になりそうな予感がしている。

 皇女様はさっさとどこかへ行ってしまったので、わたしたち土地勘のない3人が残されたのだ。


「どこに帰ってこいって言ってたっけ」

「さっきの部屋でしょ。もう既にどこから来たかわからないけれど」


 どこをどう歩いてきたのか、わたしたちはなんとも美しい庭園にたどり着いていた。しかしどうやら、ここでも季節は夏のようなので、日差しが強いことこの上ない。


「あれ、あそこにいるのって」


 ミナが声を上げて、庭園の木陰の方へ走る。


「あれ?」


 木陰の方に、かがんでいた人影が腰を上げた。


 人影は、二つあった。

 一人は、金髪のショートヘアの女の子。大きめのTシャツにベージュのショートパンツというボーイッシュな恰好をしている。

 もう一人は、黒い癖っ毛の男の子。寝癖をそのままにしたような髪型だが、おそらく時間がかかっているのではないか、と予想。


「ミナさんじゃないですかーっ! お久しぶりです!」


 女の子の方が白い右手を上に大きく掲げて叫ぶ。


「久しぶりーっ!」


 ミナの方も両手を上げてそれに応えた。


「あれ? そちらの方は?」

「んー。地球から来た方」


 説明が雑。


「ああ。先輩がお話していましたね。——こんにちは! 私は、クリス、クリス・マイツェンです。不肖ながら、リサ先輩が率いる『部隊』の一隊員を務めております」


 笑顔で求められた握手に、とりあえず手を差し出して、頭を下げた。


「わたしは、サエと言います」


 名字を言っても聞き取ってもらえないともうわかっていた。何故だか日本語が通じているだけで奇跡なのだから、欲張ることはとっくにやめている。


「こんにちは。僕はカリトと言います。カルと呼んでください。——僕も、クリスちゃんと同じく『部隊』の隊員です。よろしく」


 にっこりと男の子が笑う。言葉は礼儀正しかったけれど、よろしく、と言った後にぱちりとしたウィンクのおかげで彼の悪戯っぽさが伝わってくる。


「あの、『部隊』って何ですか?」


 ずっと気になっていたことだった。貸してもらった別荘で聞いてから、ずっと訊けずに居た言葉だった。


「ああ……先輩、話していいんですっけ」


 そう言って振り向く仕草で、カルさんがクリスさんよりも年上であると知る。


「リサはいいって言ってたと思うよ?」

「じゃあ、簡単に説明することにします」

「うん」


 クリスさんがわたしの方に向き直る。


「『部隊』って言うのは、簡単に言うと、国が結成を命令して組織された集団です。『部隊』には、エリザベス先輩——皇女様です——も、さっきの通り私も、先輩も、総勢十二人が所属しています。

「結成の目的は、わたしたちの国が長らく争っている『あちら側』との決着をつけるため、武力を結集させること。

「わかっていますよ。こんな小僧と小娘を集めたところで、武力なんて集まるわけがない。

「本当の狙いは、こと。

「明確なことは伏せますが、私たちはそれぞれ違う理由で、のです。

「表向き、救国の英雄ともてはやされていますが、その実私たちは、ただの

「捨て駒です。国にとってなのです」


 クリスさんが勢い込んでさらに何か続けようとしたところで、傍らのカルさんが彼女の肩に手をかけた。


「後輩が失礼しました」


 遮るように詫びる。


「失礼ですが、これから先は外部の方にお話していいような事ではありません」

「先輩! もしかしたら、この国の人になるかもしれないんですよ?」

「クリスちゃん、そういう話は無しだよ」

「……」

「はっは、僕も国民が増えれば楽しいけどね。でも、無関係の人を戦争に巻き込んじゃいけない」

「……ごめんなさい、サエさん。嫌な話を、聞かせました」


 何だか、聞いてはいけないものを聞いてしまった気分。

 選挙で大勝した政治家の汚職事件を目にしたような気分だった。

 私が良い返しを思いつかないで、ただ二人の顔を眺めていると、クリスさんは一つ深呼吸をした。空を仰いで、もう一度向いた時には笑顔を作って私と目を合わせた。


「サエさんは、今日ここに泊まって行くんですか?」

「はい。ミナたちと一緒に」

「そうなんですね。じゃあ、せっかくだし『部隊』の皆に会ってみませんか? お詫びに案内します」


 ああ、この娘は明るい娘だ、と思う。

 さっき、あれだけ激情を表情にうかべていたのに、今はもう顔一面に笑顔を浮かべている。

 それに比べてわたしは、ずっとおどおどした表情を切り替えられないまま、彼女を見つめているに違いない。そう思うと何だか申し訳なくて、即答ができないでいた。


「じゃあ、お願いします」


 わたしが少し迷っている間に、サヨが横から答えてしまった。


「わかりました!」

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