第14話(?/?16:42)

 まるで取調室だ。

 日本で言うところのパイプ椅子に腰掛けて、皇女様を待つ。


「久しぶりだな―。覚えてるかな」


 ミナがソワソワしている。


「どうしようね、『あなた誰?』なんて言われて」

「うー。ないと信じたい。ミレーユさん気づいてた?」

「多分。顔に出てはなかったけど」


 その時、扉が外側からノックされた。


「……!」

「失礼いたします」


 扉の裏から顔を出したのは、ロングヘアにオーバルの眼鏡を掛けた小柄な女性だった。


「あ、合ってる合ってる。久しぶりー、二人共」


 その後ろから、にこやかな皇女様とは対照的に、完璧に無表情な茶髪の男の子が入ってくる。わたしの向かいに皇女様が座ると、その隣に音もなく立った。


「初めまして、冴さん」


 間違いなく日本語の発音だった。


「初めまして」


 思わず頭を下げる。


「日本の名前と、ここでの名前、どちらが呼びやすいですか」

「別に、どちらでも」

「あたしの名前は古実里香、ここではエリザベスと言います。リサと呼んでくださって結構です。――こっちは、ユーリ。日本語では誠史郎」


 皇女様に追随するようにして、男の子が頭を下げる。鳶色の切れ長の瞳が冷ややかにわたしを見つめた。


「彼はあたしの護衛です。お気になさらず」


 なんて返事して良いのかわからず、うなずいた。


「日本に帰りたいですか」

「……わからないです。さっきまで、そう思っていました」

「この世界は、居心地がいいですよね。あたしがこんな身分だから言えることなのかもしれませんが」


 例えば彼なんかに聞いたら、この世界は生きやすくなんかないと言うと思います。


と彼女は傍らの少年を見やった。


「あたしがいつも言っているのは、この世界に残ることを選ぶのは罪ではないということです。時には、楽をすることも一つの生き方です」

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