第12話(?/? 16:22)

 電車の中では、会う人会う人が親切にしてくれた。少し申し訳なくなるほど優しい人ばかりだった。


「やっと着いたー!」


 二時間ほどの乗車だったけれど、シートにずっと座っていたせいで、身体が強張っている。伸びをする動作がサヨと重なって、二人で苦笑いをした。


「やっぱりいつ来てもでかいね!」


 皇都、ベリーズストーム。

 大きな駅の北口を出てまず初めに目に入るのは、控えめなターコイズの色をした玉ねぎ型の屋根。尖塔の頂上にもしつらえられたそれが、目の前の白と水色の建物が皇様達の居城であることを物語っている。


「ここ、勇気いるんだよな」


 昆虫の羽をさかさまにしたような、両開きのドアの前でミナが立ち止まる。


「入っちゃっていいの?」

「うん」

「もう、アポイントは取ってあります」

「おじいちゃんがやってくれたんだよ!」

「私たちが行くということも伝えてあります」


 随分と有能だった。


「じゃあ、行っきまーす!」


 そうして、扉が開いた。


 まず目の前に広がったのは、格子の窓ガラスだった。差し込む光が、居間が夕方に近いことを知らせている。

 足元には、毛足の長い、いわゆるレッドカーペット。全体的にあめ色に近い茶色でまとめられていて、瀟洒で高貴なイメージ。掃除が行き届いていて、窓枠に指を滑らせても、おそらく塵一つ見当たらないはずだ。


「どこかなあ。四時二〇分には待っていて下さる話なんだけど」


 レッドカーペットは左右に分岐していて、まるで学校の廊下を見ているようだ。左右に長く続く、格子の窓ガラスの廊下。美しい光景のはずなのに、生活感がなさ過ぎて、酷く冷たい印象を受ける。

 左側を三人でのぞき込んでいると、後ろからリズミカルな足音がした。

 ——とっ、とっ、とっ、と。

 その人は、わたしたちの数メートル手前で足を止めた。


「無礼をお許しください。皇女からお迎えを仰せつかりました、ミレーユ・テリカハットと申します」


 わたしたちは驚いて何も言えなかった。

 それだけ、美しい人だった。


 わたしは今まで生きてきて、これほど精巧に完成された、人形のような美貌を目にしたことがない。

 真っ直ぐに伸びた、燃えるような赤毛。こちらを見た時の、白皙の肌に、宝石を埋め込んだような、若草色の瞳。学校の制服だろう、ブレザーにチェックのスカートをはいているだけなのに、体中からにじみ出る、光のオーラがすごい。


「奇麗」


 思わずつぶやくと、サヨさんが頷いて、


「奇麗とか、美しいよりも、人間でない様だと思っちゃう」


 聞こえていたのか、ミレーユさんがわずかに首を動かして、わたしに言った。


「人形そのものだと、言われていた頃もあります。非常に不本意でしたが」


 そう評した人の気持ちもわかる。座って、静かにほほ笑まれでもしたら、見分けをつけられない自信があるかもしれない。それくらいに奇麗だから。


「皇女様は、そんなわたくしを人として認めて、役割を与えて下さいました。ですから、わたくしは今ここにいます」


 こちらです。


 静かに一礼をして、ミレーユさんが脇で背筋を伸ばした。どうやら、ここに誰かが待っているらしい。


「開けるね」

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