第8話(17:20)

 食べたいものは、なんて言うから、出前でも取るのか、と思っていたら、サヨさんたちが料理を作ろうとキッチン(備え付け)に立ったので驚いた。


「わたしも手伝います」


 慌てて声をかけると、


「良いんですよ」

「そうそう!」


 見事なコンボで撃退されて。別にそう言われても、やることなんてないんだよなあ、って二人を置いて洋館の中を見て回った。洋館なんて言ったら、まるで殺人事件でも起こりそうな色合いの言葉だけれど、それが正しい表現なんだよな、って笑った。

 ふとしたところに、日本と同じ時計や、置き残された手鏡。

 二階から降りようとしたとき、吹き抜けの壁に、大きな写真がかかっているのを見つけた。


「いっぱい……」


 一、二、三、……

 十二。


「これ……」


 さっき言っていた、皇女様。

『リタ暦二十二年 リンメル 皇女様御一行』

 おそらく中心で笑っているのがそれだろう。微笑んでいるとか、にっこりしているとかそういうのじゃなくて、笑っているって言葉が本当によく似合う、大輪の花のような笑顔。


「可愛い」


 今にも写真の中から飛び出してきそうな笑顔だった。見た目はわたしよりも幼そうに見える。小学生と言われても通じるくらいの無邪気さが感じ取れた。

 皇女様のほかに、女の子五人、男の子六人。特徴的な人ばかりだった。


「寄せ集めって感じ」


 統一されて、訓練された団体ではないように感じた。


「話してみたいな」


 多分、周りの人たちはみんなこちらの人たちばかりなのだろう。そんなところに放り込まれた彼女の気持ちはどうだったのか、訊いてみたかった。


 階段の一段目に腰かけて、身に付けているものを確認した。制服のスカートに少ししわがついてる。

 ポケットには、ティッシュ、ハンカチ、生徒手帳、それから。


「あれ?」


 装飾された粗末なケースが入っている。


「これ……」


 うちのクラスの出し物に来てくれたカップルの方々にお渡ししている、一組のピアスだ。受付をしているときに何個か常備していたのを、そのまま持って来てしまったらしい。


「仕事とか、どうなってるんだろう」


 わたしがいなくなって、大騒ぎしてるかな。——そうでもないか。

 わたしぐらいがいなくなっても、大したことないだろう。


「わー! それ何⁉」


 すぐそばで大きな声がした。思わず肩をすくめる。


「あ、ごめん」


 隣にミナさんが腰かける。


「あっとね、料理はサヨの方が上手いんだよね」


 それだけじゃなくて、多分一人のわたしを気遣ってくれたんだろう。なんて優しいことだ。


「ピアス……です」

「ピアスかあ! 私は穴開けてないなー」


 わたしだって開けていない。一部の明るい女の子たちの考えた案だから、正直わたしは反対だった。中高一貫なのをいいことに、高校の人にデザインを依頼したと言ってえばっていたけど、どうでもいいっちゃどうでもいい。


「あ、あれ見てたの?」

「はい」

「懐かしいなー。あとちょっとでご飯できるけど、ちょっと話してもいい?」

「もちろんです」

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