第26話 そして、密かに脅威は始まる

 習ったことは、非常識な話。

「うん? スキル? あれは、初心者向けの救済だ」

 彼は、この世界をひっくり返す様な言葉を、平気で口にする。


 それを聞いて、横にいる教育係の人も、苦笑いをしている。

「そんな事を言って、知られたら、縛り首だよ」

 知らない様なので、教えてあげる。

「そうなのか?」

 それを聞いて、なぜか彼は、横にいる教育係に聞く。


「彼の言う通り。シンの言う話は、王族のみが知る秘密だ。ベイエルス君だったな。君も他言はするな。それと…… 仕方が無い。俺は、王国の国家安全管理。監視者だ。これも内緒だ。困ったことに、シンの言う危機が発生をしたときに、手助けをしてくれるチームが必要そうでね。少し…… いや、話を随分広げて報告をして、王と宰相に許可を取ってもらった。王命として、学園の中で選抜チームを作る」


 そう半分は嘘だが、シンの言ったダンジョンでの異常。これは周期が来ている可能性がある。


 その言葉を広げて、国へ報告をした。

 無論、シンの事は、どうしても怖くて報告が出来なかった……

 そう、そんな事を報告をすれば、上の気分によっては、自身の命どころか、関わった者達の命が無くなる。きっと理由をつけて、何らかのアクションは起こしてくるだろう。

 それは良い。

 国としては、仕方が無いことだろう。


 だが、そうなったとき。シンは間違いなく仲間を守り戦うだろう。それは、王国にとって最大の脅威となる。

 下手をすれば、王国がなくなることだってありえる。


 そう。マッテイスは、荒唐無稽な話だが、シンを知り…… そう感じてしまった。

 シンは、そうだな…… 眠ってはいるが、目覚めれば、物語の魔王になり得るのではないか? そう感じた。


 そのため、理不尽だが仲間を集め、彼の弱点を増やしつつ、強力なチームを作成をする。

 シンは、心を許したものには、とても優しい。

 それが、彼にとって唯一の弱点となるだろう。


 彼が暴走をしたとき、止められる事ができる者達が、絶対に必要だ。それは相反すること。失敗すれば、王国は彼らに滅ぼされる。だが……


「こら、マッテイス。お前もやれ。貴様もひ弱すぎる」

 腕を組み、なぜか宙に浮いているシン。


「へいへい」

 この頃から、性格の良いものだけを選び、選ばれた連中に対して、秘密特訓が行われる事になる。


 無論、学園は知っている。

 王命による親書が、マッテイスにより学園長に示された。

「夜中に、選ばれた者達に対して指導を行います。指名した者達に許可証の発行をお願いします」

 親書をまじまじと眺めながら、学園長は怪訝そうな顔をこちらに向ける。


「本当に起こるのか?」

「ドラゴンダンジョンの騒動は、ご存じでしょう。あれは序章だそうです。それに対して詳しい方からの報告ですし、まあ、起こらなければ、よかったとすれば良い。これは、予防という考え方だそうです」

「ふうむ。そうか、そうだな」


 こうして、学園長は丸め込まれた。


 

 学園では、試験も終わりクラスが決まった。

 危惧をしていたモニカも、一応上級クラスに入れたようだ。

 ギリギリ、上級クラス三組だが。


 ヘルミーナは一組。

 ほとんど授業は受けなくて良い。

 そうして、優雅なお茶会を通じて、居場所がまとまってくる。


 一組は特殊。

 優秀な彼らは、学年の繋がりもあり、一年の段階でリストが高等部にまで回る。

 途中で脱落がなければ、王国において重要ポストへの登用の道が開ける。

 


 そして、当然だがクラスが決まれば、仲良くなるためのサバイバルが始まる。

 これは戦時の行軍と同じ。

 目的地まで行って帰ってくる。

 馬車は使用禁止。


 学園から、南へ。

 目的地は、大陸ロレンスを分断するような、ディビィデ山脈の手前。

 何もない平原。こんな良い場所が開拓されていないのは、理由がある。

 地脈の関係なのか、近くの森からは、定期的にモンスターが湧く。

 そのための緩衝地であり、学園の演習地となっている。

 

 一年生達は、四年生達に手を引かれての行軍。


 朝出発をして、夕方に到着をする。

 四年生だけなら、昼には到着をするが仕方が無い。

 途中の休憩と、「わー」とか言いながら、走っていった行方不明者の探査。

 大人びていても、七歳児なのだから仕方が無いだろう。



 そして、到着をした後。食料採取と、水の確保を行う。

 無論これも採点となる。


 一人喜んだのは、上級三クラスに入った、モニカだ。

 生き生きとして走り回り、同じ班となった者達に知識を与える。


 そうして、各班で火が起こされて、落ち着き始めた夕暮れ。


 南の空が、急に明るく輝く。



 その日、イングヴァル帝国において、古文書を読み解き。建設を始めた魔法装置がついに動き始めた。


 国内に存在する『火のダンジョン』。

 そこからあふれ出る、魔素を利用した防衛システム。

 二百年前に建設が始まった、特殊な魔法装置は、地上三階建てで、ちょっとした要塞並みの大きさがある。その建物内部には、奇妙な文様がびっしりと描かれている。


 ダンジョンの魔素が、吸い込まれて建物に入る。

 すると、帝都を含めて、およそ百キロに及ぶ巨大なシールドが展開され、内部には浄化用の聖魔法が降りそそぐ。

 無論、ダンジョンが存在する限り、動作し続ける画期的なもの。


 ただ物理や魔法を防ぐため、雨が通らない。

 それは、制作時から危惧されていた懸念。

「防衛の為じゃ。使用する時間を考えれば良いだけの話し」

 皇帝ザシャ=ライナルト=イングヴァルは、光り輝く空を嬉しそうに眺めていた。


「あれは何だ?」

「ディビィデ山脈に向こう。帝国だな」

 学校行事のため、こそこそと付いてきた、シン達。


「エメリヤン=スヴャトスが造った国か。確か、スヴャトス帝国だったな」

 怪しく光る空を見ながら、シンがつぶやく。


「あー今は、イングヴァル帝国という」

「そうなのか……」

 そう言いながら、あの規模でシールドを張るとなると、まさかダンジョンから魔素を取っていないよなぁ。

 過去にやった実験。

 盛大にやらかした、失敗を思い出した。


 それは、スヴャトスが造ったダンジョン用の防壁。

「氾濫をしないように、蓋をしよう」

 当時の誰が聞いても、画期的なアイデアだった。

 だがそれは、神の禁忌に触れる行為だったようだ。


 あの頃、自分たちで適当な元号をつけるのが流行っていて、スヴャトスが提唱をしていた、ブーンキュー三年の事? いや、カーエイ六年だったか?


 ロレンス大陸全体で、今は統一歴というものが使われている。

 今年は、千百九十二年のようだ。

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