第25話 人助けと、人脈

「もう死にたい……」

 彼は、男爵家の次男坊。


 田舎者であり、優しく気弱。自然が好き。

 中性的な風貌のせいか、中等部に入ってから、女子に人気が出始めた。

 それが気に入らない男達。

 幾人かが集まり、彼の足を引っ張ろうと考え始めた。


「お前、男なのか?」

「女じゃないのか? 脱がしてみろよ」

 そんないじめが始まった。


 それを見て、かばってくれた女の子達。

 それが気に入らず、さらに、行為をエスカレートさせていく。


 相談をしても、学園の教師陣は語る。

「虐められるのは、お前が弱いからだ。精進をしなさい。強くなれば良いだけだ」

 そう、この世界では、命が軽い。


 弱い者は死ぬ。それが自然。

 それがいやなら、強くなれ。


 無論貴族の子弟として、そんな事は理解をしている。

 何かがあれば、自身が兵を率いていく立場。


 だが、勇名を馳せる武の家とは違い、相続により細々と続いてきた家。

 クリスティアーノが七歳の時、いきなりスキルありと判定をされて、彼の家はあわてて学園へと彼を放り込んだ。

 彼の家には、武に対するノウハウが無いためだ。


 兄であるコンラートは、跡継ぎとして、幼い頃から武術と教育を受けるために、寄親である伯爵家へと通っていた。

 だが、残炎ながら、彼にスキルは生えなかった。


 次男だからと、花を愛で、母親と共に草花を育てていた少年。

 神のいたずらなのか、なぜか、彼にスキルが与えられた。


 兄は、それでも態度を変える事がなく、彼に優しかった。


 だが、兄の願いにより、学園へ向かう前、模擬戦を行った。


 武に対して全くの素人。その戦いは、スキルだけに頼った拙いもの。

 だがそれは、兄が数年の努力の末に得たものを圧倒をしてしまう。

 倒れ込む兄に、手を差し伸べたとき。

 彼は兄の気持ちを垣間みる。


 その時に見せた、悔しそうな兄の表情は、今でも記憶に残っている。

 そう俺は努力をしたのに、神に与えられただけで……

 兄はまだ幼く、その理不尽に納得が出来ていなかった。


 だが学園に来れば、スキルだけに頼る戦いは対人においては弱く、発動の早さと、つなぎを重視される。

 無論、スキルを発動をした振りからの、フェイクも重要。


 そんな世界で、彼は素直で、ただ優しく、凡庸ぼんようであった。


 それでも、初等部時代は友達も出来て楽しく、友達と呼べる者も出来た。

 だが、中等部になり、体は変化をしてくる。

 特に、女の子は早く変わり、それに引っ張られるように、早熟な奴らは、女の子の美醜や体型を気にし始める。


 貴族の結婚は早く、成人を迎える一五歳を過ぎれば、そんな話は普通に出る。

 そう、中等部の間に繋がりを持たねば。それを過ぎれば、女の子は帰ってしまう。


 気に入った子が居れば、自分を売り込むのは必定。

 そのためには、弱点を攻め、他人を蹴り落とす。

 下手に見目がよく、他の男子と違い、物腰が柔らかで女の子に人気があったクリスティアーノが、標的にされたのは当然ともいえる。


「お顔立ちが綺麗で、優しくても、実家が男爵家。体術が弱いのは、不安ですわね」

 そう意外と、女性はシビア。

 騎士爵や、男爵家はモンスターの氾濫など、有事には兵を率いる事が多い。

 弱ければ、未亡人に一直線となってしまう。


 こうして、彼の人気は落ちていく。

 それに伴い、守ってくれるものが居なくなった彼は、憂さ晴らしの標的という立場のみ残ってしまった。


 目が合うだけで、適当な場所に引っ張り込まれて殴られる。

 この時には、すでに心は折れ、防御のスキルを発動する事も無くなっていた。


 もういやだ、帰りたい。

 スキルなんて、皆が持っていると意味がないじゃ無いか。

 あの時。悔しそうな顔を浮かべた、兄の顔。

 心の痛みを理解できる。


 だが、新学期。

 わざわざ人を呼びだして、虐め始めた奴ら。


 新たに入学してきた中途組は、普通いじめの対象となるのに今年は違った。


 そう彼は、強かった。

「貴族の常識を知らないくせに」

「やだなぁ、知らないから習いに来たのですよ。先輩として教えてくださいよ。スキルと武術は教えてあげますから。ねえ弱っちい先輩ぃ」


 彼は、周りを囲む者達を逆に打ちのめし、それにより三年編入組をまとめ上げた。


 相談をしたときに、先生が言った言葉。

「虐められるのは、お前が弱いからだ。精進をしなさい。強くなれば良いだけだ」

 そうまさに、彼はそれを周りに示した。

 デューラー十二歳。


 彼は、ダンジョンの近くにあるスラム育ち。

 十二歳で選定に引っかかり、力を見せる事により、ダンジョン守護である、オルガ=シュゴーデン侯爵に拾われた。


「僕とは違う。彼は力で、あっという間に皆に認められた」

 ぐじぐじと思いながら、虐められるために二階のトイレについて行った。


 いつもの様に、周りを囲まれ憂さ晴らしの対象として囲まれていた。

 だが、数人が別の奴も連れてくると言って、連れてきた相手。


 到着の隙を見て、個室へと逃げ込んだ彼。

 外では、何かが起こり、奴らが叫びながら逃げていった。

 人気が無くなり、周囲に光が満ちる。


 そして、気の抜けるような声が響く。

「これは知らなかったな。内緒だよ」

 よく分からないが、返事をする。

「はひぃ」

 声が引っくり返る。


 そしてその声の主は、言葉を続ける。

「変わりたければこい。教えてやる」

 その言葉が、なぜかすっと心に入ってきた。


 そっと覗く。

 立っていたのは、平民の格好をした子ども。

 学園内で、平民?


 スキル無し……

 だけど、確かに周りを囲んでいた連中は、いなくなっている。

 彼が何かをしたのだろう。

 水系の魔法なのか、水音はした。

 その後、奴らのうめき声。


 そして、バチバチとあまり聞いた事のない音と、少し生臭い匂い。

 これは放電による、オゾンの発生だが、彼は知らなかった。


 その後、日々を虐められながら暮らし、考えた末に彼を訪ねる。


 彼によくしてくれた、下級貴族の娘が、戯れに手込めにされて退学をした。

 彼女は、元平民でスキルにより拾われたもの。

 その立場は、弱かった。

 親の方も、きっと純潔を散らされた彼女を責めるだろう。

 そう王国は、そんな場所。


「僕を強くしてください」

 半信半疑。

 彼は、スキル無しの平民。

 単なる学園の清掃員なのだ。

 普通に考えれば、おかしな話。


 だが僕は、もう弱い自分がいやになった。

「では、早速始めよう」

 彼は不敵に笑う……


「はい。お願いします」

 九歳だという、年下の子どもに僕は頭を下げる……

 強くなるために。

 大事なものを、守るため……

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