第3話 予定外のモンスター

「おいガキども、遅れるな」

 年上の少年達が、モンスターを倒し、小さな子達がその素材を剥ぎ担いでいく。


 モンスターを倒せば、少し強くなるとか、スキルが得られるとか噂がある。

 だがそれは、証明されたものでは無く、あくまでも噂だ。


 確かに、ずっとダンジョンに潜っている者達は、モンスターの気配が分かったり力が強かったりする。

 だがその比較対照は町の平民。

 戦場とも言えるダンジョンにずっと居るものが、強くなるのは当たり前だし、この穴蔵では弱いものはすぐに死んでしまう。


「おいシン。遅れるな」

「うん」

 今五歳の小さな子供。

 ここでは、物心が付けば、ナイフの使い方を覚え、外での手伝いをする。

 そして、五歳にもなれば、戦いの場に足を踏み入れる。

 生活の為と、スキルの確認のため。


 実際、少し前から潜っているヘラルドやティトは、ナイフを使いゴブリンを倒す。


 そう、十五歳を越える者達でも、集団で攻撃をされ気を抜けば危険な相手。

 モンスターは、たとえスライムでも危険である。

 倒れ込んだり、寝ているときにスライムに襲われて死んだ者は多い。


 たとえ一階層目でも、油断をしてはいけない。


 このダンジョンの最下層には、ドラゴンが居て、倒せば望みを聞いてもらえるとか、人外の力を得ることができるとか言われている。


 伝説はあるが、底に到達できたものは、公式にはいない事になっている。


 少年達と、引率の青年達は奥へと向かう。

 目的は、ウルフ系とラビット系モンスター。

 肉が食えて、皮が高値で売れる。


 だが危険。どちらも、凶悪な角と牙を持つ。


 引率の青年バルトルトとハーロルトが何かを感じて暗闇に弓を向ける。彼らは十五歳。この前能力無しと診断されて、探索者となる為。今は引率をしながら金を稼ぎ、武器をそろえる為に頑張っている。


 今は、食料調達用の引率中だが、自由時間は浅い階層用のポーターをしている。

 食料調達用の引率は、ここで育った者達の義務だ。世話になって育ったのだから働いて返す。


 中には、この義務から逃げる者もいるが……

 子供達の親は、大半は探索者であり、父親や、両親が帰ってこなかった者達の子供が多い。そのため、義務から逃げた者は、噂が広がり雇ってもらえなくなる。

 そのため逃げた奴は、他国のダンジョンへ向かう。


 そしてこの日。

 目の前に現れたモンスターは、この階にいないはずの、オーク。


 とっさに放った矢は、厚い皮膚と筋肉にはじかれる。

「やべえ、逃げろ」

 引率五人と、少年達七人は一斉に元来た方へと帰り始める。

 だが、シンは誰かに押されて、転んでしまう。


 あわてて立ち上がった彼は、丁度地面を蹴り、跳ね上がってきたオークの足に蹴られて、跳ね飛ばされる。飛んだ先は、地面から生えている石柱の一本。それを背中で砕く。

 石柱は太さ十五センチ位だったが、蹴られた衝撃とぶつかった衝撃、彼は、そのまま意識を失う。


 肋骨は折れ、内臓も傷つき、即死をしなかったのは、多分体が軽かったから。底については、運が良かったとしか言えない。



 だが、目を覚まし。ふと気が付けば、体はあふれかえる力を持ち、傷は修復され、膨大な魔法の知識と、人間とは思えない魔力量。

 さらに、なぜか前世の記憶まで蘇っていた。


 これは肉体が死に、その時リッチとなる為に記憶が拡散するのを警戒して、編み込まれた魔法の術式が、魂にまで影響をした様だ。


 寝転がっていた少年。シンは、その場に座り直し、記憶を整理し直す。

 皆と来て、この階にいないはずのオークが現れ、小さいが為に蹴り飛ばされた。

 そこで記憶は途切れた。


 目が覚めると、理由は分からないが、老衰により天寿を全うをしたはずのラファエル=デルクセンの記憶がある。

 それは、今の記憶と照らし合わせて、前世の記憶なのだと理解をする。


 そして、奥から現れた者はオーガ。

 何か状態異常中なのか、まともでは無い。

 うがうがと言いながら、荒ぶっている。

 状況を、五歳とは思えない冷静さで理解する。


「こいつが原因か……」

 そうつぶやくと、軽く下から上に手を振る。

 それだけで空間が軋み、オーガは細かくなると、燃え尽きる。


 かれは、じっと自分の手を見てつぶやく……

「うむ。若いが、若すぎる」

 無理をすると、この脆い体では壊れてしまう。

 そう理解すると、ゆっくりと立ち上がり、出口に向かう。


 

 途中、仲間だった物をもてあそぶオークがいた。

 そう、自分を蹴り飛ばした奴だ。


 現場に転がっていた、仲間が持っていたナイフ。

 それを拾うと、次の瞬間にはオークの頭に突き刺さり、シンは投擲の負荷に耐えられず、壊れた右肘を修復する。


 効率的な身体操作で、とんでもない速度でナイフを投擲をした。

 それはいい。だが、幼い体は耐えられなかったようだ。

「これは駄目だ。無理をさせないよう、気を付けよう」

 記憶と違う、体のもろさ。


 オークは売れるが、持ち帰ることも出来ない。

 多少魔力により、身体強化を施してみたが、それでも非力。

「仕方が無い」

 新たに空間を創り、そこに、皆や獲物であるオークを収納する。


 そして、何もなくなったダンジョンを一瞥すると、彼は静かに後にする。



 地上に戻り、先ずはちびっ子を管理するリーダーに、顛末を説明をする。


「うむ。下の階層で何かがあり、状態異常となったオーガがオークなどを襲ったようである。確信はない。あくまでも予測である。そして、そのオーガから逃げる際に、オークが、たまたま出くわした我らを襲った。まあ行きがけの駄賃という奴だ。皆あわてて逃げたが、逃げ切れなかった様だ。我は最初に一撃を食らい。不覚にも意識を飛ばしてしまった。それ故、彼らの命を守れなかった。すまぬ」

 そう言って、悔しそうな表情を見せながら、シンは頭を下げる。


 そして、当然のように亜空間から、皆の亡骸と、オークを出していく。


 当然、一人で帰って来たシンを見て、何かがあったことは判っていた。だけど、ちびっ子がダンジョンで怖くなり、勝手に帰ってくることも良くある。

「一人でどうしたの? リーダーには帰ることを伝えた?」

 目線を合わせて、優しくそう聞いた答えが、これである。


 じじい口調で、整然と報告。五歳のそれでは決してない。

 その報告を受けるちびっ子達の管理リーダー、ドミニクとアーネは呆然とする。

 ドミニクとアーネは女性で、十七歳と十六歳。

 無能力者であり、孤児院ともいえるちびっ子達の姉のような存在。


 だが、目の前で起こっている事に、彼女達の理解は追いつかず、へたり混んでしまう。

 ドミニクは、丁度シンと目線が合い、その目に引き込まれてしまう。


 彼女は、五歳児のシンに、男を感じてしまった……

「アーネ。夢の使徒。マルク達がその辺りにいたから、連れてきて……」

「うっうん」

 アーネは、その言葉に何とか正気を取り戻し、走り出すといきなり壁にぶつかり、引っくり返る。

 鼻血をだしながらも、あわてて立ち上がり、走って行った。

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